
不透明な男
第14章 終幕
智「じゃあ、この時は既に向かいのホテルに居るんだよね?」
A「ああ、お前が入るのを確認したらホテルに移動する」
智「角度は大丈夫だと思うけど、ちゃんと撮れるかな」
A「様子を見て窓際に移動しろ。それならバッチリだ」
智「ん~、でもおれ、動けるかな…」
B「どういう事だ?」
智「拘束されそうだなあと思って」
夫人に拘束グッズなんて渡しやがって。
そういう趣味があるんだろう。
智「縛られる代わりに、お前が押さえ付けてくれたら動きやすいんだけど」
B「わかった」
A「バレない様にしろよ? 本気で苛めるつもりでやれ」
B「ああ…」
鼻の下伸びてるぞ。
何考えてんだ。
智「フリだけだかんね?」
B「わ、わかってるよ」
証拠を握る。
その為に俺は囮になるんだ。
A「証拠を押さえたら突入するから、それまで粘れ」
智「うん」
B「鍵は任せろ。ちゃんと開けとく」
何処から連れて来るのかは知らないが、Aの知り合いだと言うゴシップ雑誌のカメラマンと、これまた知り合いだと言う刑事を用意していた。
A「取り敢えずは暴行未遂の現行犯で逮捕するつもりだから… 成瀬、ヤラれるなよ?」
智「大丈夫。コイツがついてる」
Aは、既に知り合いの刑事と話を重ねていた。
本当に罪に問いたいのは暴行なんかじゃない。
だけど、手っ取り早く逮捕するにはこれが一番早いと言う。
本題は捕まえてからだ。
その後は、警察に任せればいい。
何をどう交渉したのかは知らないが、あの海だって調べに入っている様だ。
既に遺体なんて無いかもしれない。
だけど、骨の一本でも出れば、もう言い逃れは出来ないんだ。
A「…怖いか?」
智「大丈夫だよ」
B「当時の事、思い出すんじゃねえのか?」
智「ふふ、実はちょっとびびってるけどね…」
目を閉じて軽く深呼吸した俺の頭を、ぽんぽんと撫でる。
A「もう寝よう」
智「ん…」
ちゃんと守ってやるよと、優しく声をかけてくれる二人と共にベッドに入る。
子供を寝かし付ける様にトントンと胸を叩かれながら、俺は眠る。
悪夢も、今日で終わりにするんだ。
