
不透明な男
第14章 終幕
社「どうした成瀬、酔ったのか?」
智「あ、いえ…、そういう訳では」
どうしたんだろう、これくらいの量で酔う筈無いのに。
社「少し、汗をかいているな」
智「あれ…? ふふ、酔ったのかな。なんだか体が熱くて」
社「このワインはアルコールが高いからな。 まあ、旨いものには毒があると言うが…」
智「毒、ですか?」
社「ははっ、冗談だ。キツい酒に酔っただけだろう」
アルコールが高かったのか。
それにしたって心臓がバクバクと音を立てる程に体内の血が騒ぐ。
智「ふぅ…」
じわりと額に滲む汗を手の甲で拭う。
その様子を社長は静かに見ている。
腕を組んで、指に挟んだグラスを揺らしながら、只静かに俺を見ているんだ。
社「はは…、随分と酔いが回った様だな。そろそろ出ようか」
智「あ…、はい」
俺の背を支えながら社長は車に向かう。
ニヤニヤと笑う事も無く、冷静に俺を誘導する。
智「すいません社長。ありがとうございます」
社「いや、いい」
俺を誘導し、車に乗せてくれた事に対して礼を言う。
するとどうした事か、8年前に見た様な優しい顔を出した。
社「そんなに遠慮する事は無い。今日はもう任務も終わっただろう?」
その優しい顔付きから、瞳にギラギラとした光を宿らせる。
目を細めた社長は俺の首に手を伸ばした。
社「弛めた方がいい。楽になるぞ…」
智「あ…」
スルスルと俺のネクタイを外し、ボタンに手を掛ける。
智「自分で出来ますから…」
そう言って首元にある社長の手を掴む。
いつもならこれで社長は手を引くのに、今日の社長は手を離さなかった。
社「私に任せておけばいいんだ…」
智「え…?」
瞳が黒く濁る。
その瞳は俺の首に浮かぶ血管に視線を注ぐ。
ボタンを外した胸元に手を差し込み、鎖骨を撫でる。
さわさわと撫でては上に手を滑らせ首の血管を撫でる。
智「しゃ、社長」
社「滑らかな肌をしているな…」
舌舐めずりでもするのかと思った。
それ程に社長の瞳は妖しく光っていた。
緊張を隠せない。
酒のせいなのか、俺の身体は火照り汗が滲んでいる。
脈打つ血管は酒のせいだと誤魔化せそうだ。
だけど、少し震え始めた指先は誤魔化せそうに無かった。
