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不透明な男

第14章 終幕



智「っ、はぁ…」


心臓がバクバクする。
身体が熱い。


社「成瀬、大丈夫か」

智「おかしいな…。こんなに酔う筈無いんですけど…」


緊張も手伝っているのだろうか。
昨夜もそれ程眠れなかったし、睡眠不足も作用しているのか。


社「辛いだろう。可愛そうに…」


酔っている?
頭はそれ程ぼーっとしている訳でも無い。
只、ひたすら身体が熱い。
血液が騒ぐんだ。


社「ベルトも弛めてやろう」

智「社長、本当に大丈夫ですから…」


やはり制する俺の手を押さえ、カチャカチャとベルトを弛める。


智「ふぅ…」

社「少しは楽になったか?」

智「ええ…、ありがとうございます」


堅苦しい座り方はしなくていい、後ろに凭れろと俺の胸を押す。


社「もうすぐ着くから、それまで休んでればいい」

智「何処に行くんですか…?」

社「そうだな…、隠れ家、みたいなものだ」

智「隠れ家…」


あのマンションの事だ。
昔に見た様な景色が広がる。

あの場所が、近付いてくる。


智「僕に教えたい事と言うのは、その家の事ですか…?」

社「不安か…?」

智「ええ」


後ろに凭れながら俺はチラッと社長を見上げた。


智「それまでに酔いが覚めるかな~って、不安ですよ(笑)」


汗を滲ませ、少し呼吸を荒めて俺は話す。


社「ははっ…、そのままでいいんだよ」

智「このまま…?」

社「ああ、その方が、教えやすいからな…」


後ろに凭れ、身体から力を抜いて座る。
だらんとした体に纏うスーツは乱れ、その隙間から汗が覗く。

暗い車内で対向車のライトに照らされ、俺の汗は妖艶に光る。


社「着いたら起こしてやる。少し休めばいい」


目を閉じる事を許された俺は、素直に目を瞑った。

騒ぐ血を抑えようと、火照る身体を落ち着かせようと深い呼吸をする。


社「成瀬…」


すぐに浅い息を吐いてしまう俺の頭を社長は撫でる。

その手は次第に下りて行き、俺の耳を撫でる。

耳から首、そして鎖骨と、順に滑って行く。


智「はぁ…」


その感覚に震えている訳では無い。



只、自分の身体が他人の物にでもなったかの様に、コントロールが効かなくなっていた。




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