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不透明な男

第14章 終幕



車のスピードが落ちる。
その揺れに俺は薄く目を開け、そっと車窓に目をやる。

社長に気付かれない様に微動だにせず窓の外を伺い、隠れているAを見付けた。


社「成瀬、着いたぞ…」

智「ん…、あ、はい」


少し寝てしまいました、と苦笑いをしながら答える。
その間に社長は俺の乱れた服を少し直した。


社「歩けるか?」

智「ええ、大丈夫です」


わざとよろけて社長に捕まりながら連行されている感じを出そうと思っていた。
だが俺の足はわざわざ力を抜かなくても良かった。
立とうと力を入れると、何故か膝が震えた。


智「…あっ」

社「私に捕まるといい」


運転手は着いて来ないのか。
だとしたら後ろに着いて来ていた、あまり見た事の無いBGが来るのか。


智「あ、いえ。大丈夫です」


社長の伸ばされた手を制し、少し後ずさる。
それを見たBGは、俺が抵抗したと思ったのか素早く社長に駆け寄り俺を捕まえた。


智「え、何…」


俺の両脇を捕まえるBG達をキョロキョロと見上げ、正面にいる社長に不安な顔を見せた。


社「何も心配は要らない。お前を開ける様に手伝ってくれる奴らだ」

智「開く…?」

社「ああ。お前の全てを、見せてくれないか…?」


いい写真が撮れただろう。
男に羽交い締めにされ、社長が前から詰め寄る。
俺は、不安な顔をそのままにマンションへと連行された。


智「っ、はぁ、はぁ…」


それにしても苦しいな。
少し歩いただけなのに、首の脈がドクドクと波打っている。


智「え…、お前…、どうしてここに?」

社「私が呼んだんだ。知ってる奴がいる方が、お前も気楽かと思ってな」


部屋に入り、ソファーへ座らされた。
その部屋にいるBと目を合わせると、昨晩覚えた台詞を吐いた。


社「水を成瀬に」


荒い息を吐く俺に、Bが水を持ってくる。
汗を滲ませた俺を少し怪訝そうな顔で見ると、Bはスッと社長の後ろに戻った。


智「ありがとうございます…」


水が喉を通るだけでゾクゾクと背が震えた。

激しく身体を這い回る血液は、俺の身体をジンジンと痺れさせ熱を持たせる。



おかしいな…



自分の異常に首を捻る俺を、社長は背広を脱ぎながら見ていた。





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