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不透明な男

第14章 終幕



ここからは窓は見えない。
確か向こうに冷たい部屋があった筈だ。
で、その壁の奥にベッドがある。


智「ふぅ…」


グラスをカチャンとテーブルに置くと、楽にしろ、と服を脱ぐ事を進められた。


智「では上着だけ…」

社「それじゃ辛いままだろう。服を弛めなさい」


脱いだ上着をBが取りに来る。
上着を渡している間に社長は俺の隣に移動し、素早く首に手を掛けた。


智「本当に大丈夫ですから…」

社「こんなに汗をかいて…、大丈夫な訳無いだろう?」


社長の手を掴み、少し困った顔を見せる。
すると、社長は黒い瞳を大きく輝かせた。


智「それより、僕に教えたい事とは…?」

社「…自分を開く事だ」


俺の首元にある社長の手を掴んだまま、俺は眉を潜めた。
目の前にいる社長の瞳を見つめ、不安を湛えた瞳を揺らす。


智「それはどう言う…?」


逆にグッと手首を捕まれ、もう片方の手で俺のうなじを撫で付ける。


智「しゃ、社長」


その手は耳を撫で、俺の頬に回ると顔の形を覚えるかの様にゆっくりと這い回った。


智「何を…」


頬に乗せられた手が止まると、少しずつ社長の顔が近付く。


智「社長…っ」


目をぎゅっと瞑ると、俺は咄嗟に顔を背ける。


智「んん…っ」


背けた顔を両手で挟み込み、素早く俺の唇を塞ぐ。


智「ん、ふ…っ」


押し退けてやろうと思ったのに、何故か俺の両手は動かない。
誰だか分からないあのBGが、無表情で俺の腕を押さえていたからだ。


智「ん、社長…っ、やめ」


些細な抵抗は虚しく、俺の口内はいとも簡単に犯される。

唇の隙間から漏れる俺の荒い呼吸に、社長は少しずつ激しさを増す。


智「はぁっ、はぁ、しゃ、社長…?」


俺の唇を解放し、社長は満足そうに俺を見つめる。

怯えた瞳を隠せない俺を見て、余裕の笑みを浮かべるんだ。


社「熱を持った身体は辛いだろう…?」

智「え…?」


そうか。
酒のせいじゃ無かった。



俺は、まんまと罠に嵌まったんだ。




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