
不透明な男
第14章 終幕
体内を駆け回る血液も、この火照った身体も、全ては仕組まれた事だった。
じわりと額に滲む汗は、熱くて出ているのか冷や汗なのか、それすら分からない程だ。
社「初めてだろうからと、少量にしておいたのだが…。よく効いている様だな」
智「僕に何を…?」
社「何も心配する事は無い、只の興奮剤だ。…毒では無いから安心しなさい」
興奮剤という名の毒で、俺を支配しようとしている。
社長の余裕に満ちた笑みは、この為だったのか。
智「ど、どうしてそんな物」
社「…なかなか私の物にならないからだよ」
俺をソファーに押し付け社長が近付く。
ゆっくりと迫るその瞳から目が逸らせない。
智「あ…、や、やめ」
社「怖がる事は無い。お前に快楽を与えてやるんだ…」
押し付けた俺の服を素早く乱す。
抵抗を試みるも、俺の腕は直ぐ様BGに捕まる。
智「ん、ふ…っ」
なんとも言えないいやらしい顔付きで、社長は俺の首に舌を這わせる。
今まで手に入れられなかった物がもうすぐ自分の物になる。
その事が嬉しくて仕方ないとでも言う様に、愉しそうな顔で俺を舐め回すんだ。
智「う…ぁ、社長、やめ…」
こんな窓も無い部屋で黙ってヤラれる訳には行かない。
俺を押さえるBGをなんとか振り払わなくては。
智「はぁっ、はぁ、しゃ、社長」
薬のせいで息があがる。
それを俺の興奮と捉えたか、社長は嬉しそうに笑う。
社「すぐに楽にしてやるからな…」
俺の押さえ付けられた腕がフッと弛んだ。
いつの間にかBGはBに代わっていた。
智「じょ、冗談はやめて下さい…っ」
バッと捕まれた手を振りほどき、俺は社長を跳ね除けた。
そのまま一目散に壁の途切れた隣の部屋へと向かう。
智「え…っ」
社「はは、そっちの部屋がいいのか?」
部屋に入ると、俺の足はすくんだ。
8年前にも見た光景。
それを思い出して覚悟をしていた。
それなのに、俺の足は前に進めないんだ。
社「いい部屋だろう?」
智「…っ、こ、これは…?」
コンクリ打ちの壁から冷気が漂う。
その冷たさにゾクッと身震いをしてしまう。
動けなくなった俺に、社長は愉しそうに歩み寄るんだった。
