
不透明な男
第14章 終幕
智「僕を、どうするつもりですか…」
フフッと鼻で笑いながら社長は俺に近付く。
社「まだ分からないのか?」
俺の頭越しに、天井から吊り下げられた鉄の金具を見ながら社長は話す。
社「今日で、お前は私の物になるんだ」
黒い瞳をギラつかせながら、少しずつ、少しずつと俺に歩み寄ってくる。
もう少しで手が届く、その時に漸く俺の足は動いた。
智「こ、来ないで下さい…」
怯えた瞳で社長を見ながら俺は後ずさる。
背に当たった壁に手を這わせ、壁伝いにジワジワと逃げる。
社「…どうしてそんなに怯えている?」
何故怖いのか全く分からないとでも言う様な表情を、社長はしてくるんだ。
社「お前は知らないだけだ。…世界が変わるぞ?」
ガクガクと震える手足を引きずって、俺は社長から遠ざかる。
フリなんかじゃない。
俺は、本当に怯えていたんだ。
その途切れた壁の後ろに回ると、目の前には大きなベッドが佇んでいた。
智「…っ」
社「もうお前は逃げられない。諦めたらどうだ」
背後から声を掛ける社長を振り向く事無く、俺はカーテンの隙間に目をやる。
社「成瀬、こっちに」
俺をベッドに呼ぶ。
肩で荒い呼吸をしながらも、俺は返事をしない。
その少しの隙間を、もう少し広げなくてはいけないんだ。
倒れ込む様にカーテンに手を掛けるかと考えていた俺の目に、既にいる筈の無いAの姿が映った。
…え?
なんでまだそこに居るんだ
もう向かいのホテルにいる筈だろ?
Aは、何やら男に捕まっている。
ひょっとして、社長が外に警備を付けたのか。
だがその男はAよりも小さく、BGと呼ぶには迫力が無かった。
トラブルでもあったのか?
早くしないと間がもたねえ…
チョロチョロとAの回りを彷徨く男に見覚えがあった。
あの背格好を何処かで見た気がする。
智「…!」
社「どうした…、何か気になる物でもあるのか?」
外の男の正体に気付いた俺は、思わず息を呑んだ。
目を見開き固まる俺を、社長は不審そうに見る。
今、外を見られたら終わりだ。
怯えた瞳を最大限に生かす。
俺は、怯える瞳でゆっくりと社長に振り向き、震えながらカーテンを掴むと窓に背を張り付けた。
