テキストサイズ

不透明な男

第14章 終幕



A「じゃあ、洗うだけ、な?」

智「いいって、触らないで」

B「まだ言うのか? 汚くないって言ってるだろ」


荒い呼吸はそのままに、俺は二人に断りを入れる。


A「相当辛そうじゃないか…」

智「ん、はぁっ、は」

B「涙も止まらないじゃねえか、身体も震えてるし」


しがみついた手がぶるぶると震える。
心配するだろうからと、なんとか抑えようとしているのに身体は言う事をきかない。


智「はぁっ、あ、熱いよ…」

A「仕方無い、出て水を飲もう」


脇を支えて立ち上がらせる。
だが力を入れたと思った足は、ガタッと音を立てて崩れた。


B「おい、大丈夫か!?」

智「だ、だいじょ…」


息を整えて返事をしようと思った時、ドアの向こうでさっき俺の耳から去っていった足音が聞こえた。


翔「大野さん、大野さん!?」


ドンドンとバスルームのドアを叩く音がする。
物音を聞いて、翔がこっちに来たみたいだ。


A「ああ、大丈夫だ。…水の用意をしておいてくれるか?」

翔「はっ、はい!」


返事をすると、翔の足音は足早に去って行った。


智「ま、まだ居たの…?」

A「相当心配してたんだ、そう冷たくしてやるな」


全く力の抜けてしまった俺を抱き抱え、バスルームを出る。
水の入ったコップを持ち、心配そうに佇む翔の横を通り過ぎると、俺はベッドに下ろされた。


翔「どうぞ…」


どうしても翔の顔を見られない俺は、俯いたままコップを受け取る。

しっかりタオルで水分を拭いて貰ったにも関わらず汗を滲ませる俺に、翔の視線が刺さる。


智「はぁ、はぁ…」


あがる息が抑えられない。
こんな姿、見られたく無いのに指先は震え、汗が頬を伝う。


翔「辛いですか…?」


俺が何故こんな事になっているのか、事情を知っている様だった。
何も聞かずに只、心配そうに俺を見る。


A「成瀬、明日の段取りがあるから俺はゴシップ雑誌社に行かないといけないんだが…」

智「あ、あぁ、そうだったね」

A「で、コイツには刑事の方に行って貰いたいんだが」

B「坊っちゃん、あと、頼んでいいか?」



おいおい、まさか二人きりにするつもりか?

こんな状態で、水を飲むのもひと苦労だと言うのに。



明らかに気まずい空気を残したまま、二人は部屋を後にした。






ストーリーメニュー

TOPTOPへ