不透明な男
第14章 終幕
静寂が部屋を包む。
その静かな部屋には、俺の浅い呼吸の音が響く。
翔はと言うと、さっきAに渡された何かを、俯いてじっと見つめていた。
それじゃ俺達は行くからと、一言残して部屋を出ようとした。
そんなAは、すれ違い様に翔に何かを渡した様だった。
それを見たBは、何やらニヤリと笑い、ぽんぽんと翔の肩を叩いて出て行った。
なんだろう。
あの笑み、嫌な予感がする。
カサッとメモの様な物をポケットにしまい、翔は振り向く。
翔「呼吸が荒いですね…。横になりますか?」
智「あ…、う、うん」
俺の背を支え、そっと横たわらせる。
翔に触れられた背が、少し震えた。
智「し、翔くんも、帰って、いいよ…」
翔「そんな状態の人を、一人にしておけませんよ」
一人の方が楽だと思った。
翔の視線が怖かったんだ。
翔が俺を見る度、心臓が止まりそうだった。
智「っ、なに…」
翔「熱を持ち過ぎてますからね。少し冷やしましょう」
医者の様な台詞で、俺の額に冷たいタオルを乗せる。
その手は俺の首にも掛かり、バスローブを弛めようと力が込められた。
智「だ、駄目っ」
翔「首も冷した方がいいんですよ。ほら、手をどけて…」
ぎゅっとバスローブを掴んだ俺の手をほどく。
その弛んだ首元からは、紅い跡が覗いた。
翔「あ…」
智「み、ない…で」
俺は咄嗟に顔を背けた。
見られてしまった跡は隠せないから、自分の顔を隠したんだ。
翔「汗も、酷いですね…」
智「…っ、ん」
冷やされたタオルが俺の首を這う。
翔「拭いてあげますね…」
智「っ、は」
汗と言うよりは、俺の紅い跡をなぞる。
首筋、鎖骨、胸、いろいろな所に付けられた箇所を、そのタオルは丁寧になぞった。
智「っ、しょ、翔くん…?」
俺に触れていたタオルの感触はいつしか無くなっていた。
俺の身体を撫でているのは、翔の手だったんだ。