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不透明な男

第14章 終幕



手首の傷を癒す様に、翔の舌は這う。
激しく打つ脈に辿り着くと、翔の唇は優しく吸い付くんだ。

その優しい刺激と温かさに、俺は震える。


智「駄目だ、って」


薬のせいで、あの男達なんかのせいで疼いてしまった脈は、翔に伝わる。
その浅ましい身体が気持ち悪くて、翔には触れられたく無かった。


智「汚いから、離して…」


顔を背けたまま言った。
こんな醜態を晒して、翔の顔なんて見れる筈が無いんだ。


翔「大野さん…」


俺に触れて、汚れて行ってしまう翔も見ていられなかった。


智「頼むから、おれに触らな…」


ベッドサイドの薄灯りが、フッと暗くなった。
その瞬間、目を閉じたままの俺の唇に、温かいものが触れた。


智「ん…」


翔の唇だ。
温かくて、柔らかい。

触れただけなのに、俺の心は疼いた。


翔「大野さ、ん…」


俺の唇をふんわりと啄みながら、優しい声を聞かせる。
その低い翔の声は、俺の脳に響く。


翔「怖がらないで…」


嫌だやめてと言いながらも、あの男達に反応してしまう俺の身体がおぞましかった。
全くコントロールがきかなかった。

快楽を感じていた訳じゃない。

嫌で嫌で堪らなかったのに、何故か身体は勝手に疼いたんだ。

自分が自分で無くなった様で、怖くなった。

熱い身体と反して震えていた訳は、かろうじて残っていた俺の理性だった。


翔「僕が、助けるから」


翔の声は、俺の耳に優しく響く。
その甘い声は、俺の理性を奪いそうになる。


智「ふ、ぁ…」


その柔らかい響きに、つい力が緩む。
俺の緩んだ唇に、翔の舌はそっと差し込まれ、ゆっくりと俺の舌を撫でた。


智「んぅ…」


心臓が震えるんだ。

脳はジンジンと痺れて、余計な事を考えるなと言う。


智「翔、く…」


駄目だ。
だけど、駄目なんだ。

震える心臓を抑えろ。

疼く心を、抑えるんだ。


智「やめ、て…」



翔は綺麗なんだ。



こんなの、触っちゃいけない。






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