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不透明な男

第14章 終幕



翔「泣かないで…」


顔を背けて息を切らす。
瞳を固く閉じていても、何故か涙が溢れた。


翔「大野さん…」

智「…ん、ぅ」


背けた顔を掴み、翔は唇を重ねる。
その触れた所から、冷たい水を俺に流し込む。

翔がくれた水は口から溢れ、頬と首を伝いシーツを濡らした。


翔「駄目ですよ、ちゃんと飲まなきゃ。脱水になってしまう…」


もう一度翔は唇を重ねる。
俺は、ゴクッと喉を鳴らしてその水を飲んだ。


智「は…ぁ…」

翔「少しは、落ち着きましたか?」


俺の頭を撫で、翔は顔を俺の首に埋める。
さっき溢した水を、翔の舌が舐め取る。


智「…っ、ふ」


収める術を忘れた身体は、たちまちピクッと震えた。
熱い息を吐く俺に、翔は言うんだ。


翔「貴方を救いたいんだ。僕に、助けさせて…」


翔は俺の鎖骨に吸い付く。
俺の身体に生々しく残った紅い跡を、翔の唇は癒す様に這う。


翔「あ…、こんな所まで…」

智「っ、しょ、う…」


俺の腕を持ち上げ、脇に付けられた跡を舌でなぞる。
疼く身体を止められない。


智「っ、は、はぁっ」


薬と言うのは、こんなにも俺の身体を支配するのか。
駄目だと分かっていても、俺の身体はすぐに熱を持つ。


翔「強張らないで、力を抜いて…」


震えた身体は固くなる。
浅ましいこの身体が恥ずかしくて、情けなくなる。


智「も、普通じゃ、無いんだ…っ、て」

翔「うん」


醜態を晒す自分が恥ずかしくて、言い訳を述べる。
こんな情けない俺の話を、翔は優しい瞳で聞く。


智「そんなに触られちゃ、おれは…」

翔「うん…」


俺は。


俺は、なんだ?



この疼きは薬のせいで、自分の意思なんかじゃ無いとでも言うのか?


身体は確かに熱を持ったまま火照っているが、心はあの時の様に冷えている訳では無い。

さっきは心臓が痛かったんだ。
勝手に震える身体が気持ち悪くて、吐き気がした。



だけど今はどうだ。


俺の心臓は痛くならない。

それどころか、胸が震えるんだ。



薬による身体の疼きじゃなくて、



俺の心が、疼くんだ。






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