不透明な男
第14章 終幕
翔に触れられると、心が震える。
翔の声を聞くと、胸が熱くなる。
その甘い香りを嗅ぐだけで、俺の脳は痺れたんだ。
智「な、なんで…」
何故俺は翔に反応するのだろう。
頭で考えても分からないのに、俺の身体は素直なんだ。
少し身体を撫でられただけで、熱い吐息が漏れてしまう。
智「っ、はぁ…、お、おれ、どうかしたのかな…」
翔「どうもしてませんよ…」
低い声を響かせ、翔は甘い瞳を俺に見せる。
翔「貴方の心が、正直になっただけですよ」
智「おれの、心…?」
俺を見透かした様に、翔は優しい笑みを浮かべる。
そんな翔を、俺はほんの少し首を傾げて見た。
翔「まだ気付かないの?」
智「なにを…」
翔「自分の気持ち。まだ、分からないの?」
その声は俺を悩ませる。
俺の心ってなんだ。
俺の気持ちって、どういう事なんだ。
翔「そんな潤んだ瞳で…、もう、隠せないよ?」
智「か、隠してなんか…」
俺の心を隠せない。翔はそう言う。
俺は何か隠してたか?
どうしてそんなに、見透かす様な目で見るんだ。
智「あ、ぁ…」
翔「貴方の声って、とても甘美なんですね…」
胸が熱くなるんだよ。
何故だか分からないのに、どうしてこんなに疼くんだ。
翔「僕を見て」
その刺激に耐え、ピクつかせていた瞼をそっと開ける。
翔「智くん」
重なる唇の隙間から、翔は俺の名を呼ぶ。
翔「智くん…」
あ、この声だ。
俺の名を呼ぶ翔の声。
その声は、鼓膜を通って俺の脳に染み渡る。
名前を呼ばれただけなのに、背がゾクゾクと震えて、俺の脳は痺れるんだ。
智「は、ぁ…、翔、くん」
翔は俺の脳を支配する。
甘い香りに痺れた俺は、もう何も出来なくなるんだ。
抵抗する力なんて、ひとつも沸き上がらない。
どうして胸が熱くなるのかなんて、考える事も出来なくなっていくんだ。