不透明な男
第14章 終幕
思った通りに翔は俺を抱き締める。
ぎゅっと抱き締めて、熱い舌を俺に絡めるんだ。
智「んぁ…、翔くん、もっと、強く…」
どうした事か俺は翔に甘えた。
余程おかしくなってるんだろう。
こんな事、普通では考えられなかった。
翔「ふふ、やっと甘えてくれた…」
間近にある顔は、表情なんて見えないのに笑っているのが分かる。
それも、とても嬉しそうなんだ。
智「ん、ふ…」
強く抱き締めて貰うと、俺の手も翔に触れた。
翔の腕をよじ登り、首に腕を巻き付ける。
その隙間無く触れあった肌は、とても気持ちが良かった。
翔「ん…、智く…」
俺の舌が翔を絡め取る。
頭がぼーっとして、全く動けそうに無かったのに。
自然と俺の唇は翔に吸い付いていた。
智「んんっ、ふ…」
漸く離した唇で、急に耳を襲う。
俺がピクッと震えると、俺の耳元で翔が笑みを溢すのが分かった。
智「あ…」
もう十分に俺は愛撫を受けた。
そんな翔が俺に触れる場所と言ったら、もうそこしか無かったんだ。
智「ま、待って…」
そうだ。
当たり前の事なのに、俺はその展開を忘れていた。
翔がそこに触れる。
翔が俺の中に入る。
翔は、俺を抱くんだ。
智「や…、しょ、翔くん…っ」
鼓動が高鳴る。
怖いのか、緊張なのか、それとも恥ずかしいだけなのか。
智「だ、駄目」
心臓がはちきれそうになった俺は、ついそんな事を口走る。
いいのか?
翔だぞ?
翔にそんな事をさせて、本当にいいのか?
翔「智くん…」
俺の足を割って後ろを触り出した翔の手を掴む。
小刻みに震える手で掴んで、翔を見上げる。
翔「俺とは、出来ない?」
智「そ、そうじゃなくて」
そんな顔するなよ。
そんなに寂しそうな顔で見られたら、何も言えなくなるだろう?
翔「何?」
智「だ、だって翔くんは」
男なんかとこんな事。
お前は医者だろ。
まだ研修医だけど、未来のある医者なんだ。
翔「俺は、智くんを抱きたいよ…?」
可愛い女性と結婚して、子供も作って。
翔「智くんは、俺なんかに抱かれたく無い…?」
幸せな家庭を築くんだろ?
なのにどうして、そんな事を言うんだ。
漸く戻りそうだった俺の理性を奪うな。