不透明な男
第14章 終幕
智「おれを、助けて…」
熱の籠った目を向け、翔にすがる。
すると翔は、優しく微笑んだ。
翔「助けてあげるよ…。頼まなくたって、貴方の為なら俺は…」
智「んぁ、あ」
翔「いつだって、助けるんだ」
荒い息を吐きながら、翔は動きを早める。
すがる様にしがみついた身体は翔に抱き込まれ、その温かさに自然と目を閉じた。
翔「あぁ、智くん…っ」
智「はぁっ、あ、…っ、く…」
目を閉じた俺は、翔のせつない声を聞くと一際大きく震えた。
しっかりと翔に抱き締められ、俺は籠った熱を吐き出したんだ。
翔「はぁっ、はぁ、智くん…」
俺は放心していた。
翔「智くん、大丈夫?」
心配そうに覗き込む翔の顔を見られないんだ。
翔「取り敢えず、水を」
俺の背けた顔を掴んで、翔は唇を寄せる。
智「ん…」
俺がゴクッと喉を鳴らすと、翔は安心した様な顔を見せた。
翔「ふふ、どうしたの…。しっかりして?」
俺の横で優しく笑う。
その状況が不思議でならなかった。
翔「汗、凄いね…」
汗で光る俺の額を、翔の掌が撫でる。
翔「身体も、まだ熱い」
俺の首を触り熱を確かめる。
翔「まだ苦しい…?」
そしてまた、心配そうな顔をする。
智「大丈夫…」
何があった?
俺に、何が起こったんだ。
何故俺は、翔の隣で汗を流して転がってるんだ。
翔「シャワー、しようか?」
翔に支えられ、俺はバスルームに促される。
ぼーっとしたまま翔に手を引かれ、いつの間にか体は泡だらけだ。
翔「黒髪もいいけど、やっぱりコッチの方がいいね」
いや既に黒くなかっただろう。
何故今更なんだ。
翔「何か話してよ。緊張するでしょ…」
照れ笑いを含んだ翔が俺を見る。
そうか、翔も話のネタに困ってたのか。
智「聞きたかったんだけど」
翔「うん」
智「どうしてここに?」
俺の背からシャワーを当てていた翔に振り向き、俺は問う。
翔「そっ、それは」
やっぱりつけてたな。
驚かすなよ、俺は心臓が止まる所だったんだ。
翔「心配だったんだよ…」
さっきまでニコニコと笑って可愛かったのに。
途端にしょんぼりと肩を落とすんだ。
智「怒ってないよ。驚いただけだ…」
可愛そうだから、許してやるよ。