不透明な男
第15章 嘘
そろそろ着く頃かな。
心機一転、俺は新しい町でもうすぐ夕焼けになるだろう海を眺めていた。
いや、でも今日はもう無理か。
明日一番位かな。
この町に来て、1ヶ月程が過ぎた。
そんな俺に、一本の電話が入ったんだ。
東『大野か?』
智『先生』
東『見付かったぞ。ご両親の遺骨』
身元引受け人として、東山先生の名前を出したかったが、なんせ東山先生は闇医者。
どうしたもんかなと思っていたら、夫人が名を挙げた。
でも迷惑でしょうと、断る俺に、夫人は爆弾を投下した。
夫『いいのよ。分かってる』
智『へ? 何が…』
夫『貴方があの子なら、頼る人はあの人でしょう?』
智『は…』
夫人は東山先生の後輩らしい。
同じ病院で働いていて、18歳の俺が運ばれた時にもその病院にいたと言う。
智『え、まさか、最初から気付いてたの…?』
夫『ふふっ』
智『マジか…』
あの人は警察と関われないから、私があの人に伝えてあげる。安心してと、俺に言ったんだ。
夫『あの頃はウブだったのに、いつの間にそんないやらしい手付きで女の人を触れる様になったの…?』
智『え?』
夫『覚えてない?』
智『あ…? まさか、あの時の』
俺におっぱいをパフパフして東山先生に怒られた看護師とは、夫人の事だった。
まあ、そんなこんなで、夫人から連絡を受けた東山先生が、俺に連絡をしてくれたんだ。
智『先生、悪いんだけど、送ってくれる?』
東『ああ。住所は?』
智『えっとね…』
こっちで散骨しようと思っていた。
綺麗な海があるんだ。
そんな俺の元へ両親の遺骨が届くのは、今日はもう無理か、明日かなと、俺は夕日に変わりゆく太陽を見ながら思っていたんだ。
そろそろアパートへ戻ろうか。
ひょっとしたら、大家が荷物を受け取っていてくれるかもしれない。
夕日に向かい、俺は立ち上がる。
その俺の少し前に、人影が見えた。