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不透明な男

第15章 嘘





その人物は夕日を背負い、逆光で真っ暗だ。


はぁ、はぁと肩で息をして、まるで海から這い上がって来たかの様だった。



なんだアレ。

怖えぇな、目、合わせちゃいけない奴だな。



俺はくるっと振り向き、夕日を背に立ち去ろうと足を踏み出す。


智「え…?」


そんな俺を呼ぶ声が聞こえた気がした。


智「誰…」


キョロキョロと辺りを見回しても特に人は居ない。
とすると、あの逆光で真っ黒に染まった人物しか居ないんだ。



振り向かなきゃいけないのかな…

アイツ怖いんですけど



智「呼んだ…?」



馬鹿デカい鞄を持ち、背にはこれまた大きなリュックを背負っている。
俺が振り向いた事で、その人物はほっとしたのか大きな息を吐いた。



なんだアイツ、矢印か



胸を撫で下ろした人物は、更に肩が下がってまるで黒い矢印の様だった。

でもどこかで見た事のあるその矢印に、俺は目を凝らしたんだ。



智「え…」



その矢印が近付いてくる。
大きな鞄を引き摺り、はぁはぁと肩で息をしながら。


智「な、なんで」


真っ黒だった人物に、光が当たる。


翔「智くん…」


俺の名を呼ぶんだ。


翔「智くん、やっと見つけた」


その低くて甘い声で、俺を呼ぶんだ。


智「しょ、翔、くん」


俺の顔はどんなだっただろう。
鳩が豆鉄砲を喰らったとでも言うんだろうか。
多分それが合ってるだろう。


翔「ふふっ、鳩が豆鉄砲になってる」


ほら、やっぱりそうだ。


智「どうしてここに…」


俺の声が上擦る。
その震えてしまった声は、翔に気付かれただろうか。


翔「届けにきたんだよ」


ニコッと笑った翔は、大きな鞄を開け、白い布でくるんだ包みを俺に渡した。


智「え、これって」

翔「流石に、荷物としては送れないよ」


他の郵便物と混ざって、ぞんざいに扱われる俺の両親を不憫に思ってくれたのだろうか。

こんな所まで翔は優しいんだ。


智「この為にわざわざ…?」

翔「本当は、俺が貴方に会いたかっただけなんだけどね」


はにかんだ笑顔で恥ずかしそうに笑う。


何故かその翔の笑顔が惚けて見えるんだ。




俺は、夢を見ているのか。







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