不透明な男
第15章 嘘
瞬きをしたら、夢から覚めてしまうんじゃないかと思った。
だから俺は、痛くても我慢して目を見開いていたんだ。
翔「智くん?」
だけどもう限界だ。
ヒリヒリした目は、パチッと閉じてしまった。
翔「ふふっ、そんなに俺に会いたかったの?」
もう一度目を開いても、翔は消えなかった。
翔「泣くほど寂しかったくせに、どうして一人で行っちゃうんだよ」
瞬きをした瞳から、俺の頬に水が伝ったんだ。
目に溜まった水を流して、目の前の翔は、俺の瞳にしっかりと映る。
智「翔く…」
ドンッと衝撃が走った。
翔が俺を抱き締めたんだ。
翔「本当、貴方は馬鹿だな…」
まるで俺にぶつかる様に体当たりして、俺を抱き締めた。
その力強さは本物で、幻じゃ無いと分かったんだ。
智「本当に翔くんなの…?」
翔「俺じゃなかったら誰だよ…」
その力強い腕は、少し震えていた。
翔「こんな所まで追い掛けて来るの、俺以外に誰かいる?」
居ないな。
翔しかいないよ。
智「執念深いな…」
翔「でしょ?」
ふふっと笑った翔は、少し体を離して俺の顔を見るんだ。
翔「伊達に5年も片想いしてた訳じゃ無いからね」
伊達に5年。
その台詞、まんま翔に返してやるよ。
翔「貴方を探すくらい、朝飯前だよ」
そうだろうな。
翔がどれ程俺に執着してたか、そんな事ずっと前から分かってたんだ。
智「1ヶ月掛かったじゃん…」
なのに1ヶ月も放置しやがって。
翔「そっ、それは、色々と準備が」
そうだな。
翔は用意周到なんだ。
だから東山先生の事も知ってるし、なんならニノや潤に相葉ちゃんだって、調べ上げてるんだろ。
智「なんだよ準備って…。おれの事1ヶ月も放っておいてまで必要な事だったの?」
翔「ええ? 俺なんて5年も我慢したのに」
何笑ってんだ。
やっぱ翔は馬鹿だな。
賢いくせに、俺の事なんにも分かっちゃいない。
5年前、お前大学で何を勉強してきたんだ。