不透明な男
第15章 嘘
翔「でも良かった。やっぱり待っててくれたんだ」
やっぱりって何だよ。
翔「追い返されたらどうしようって思ってたから」
智「俺の事好きなんでしょ?って、あんなに余裕で言ってたのに、自信無かったの?」
1ヶ月前のあの日、その言葉で俺を震わせたくせに。
翔「そんなのある訳無いでしょ。勘違いかもしれないって…、あれは、俺の賭けだったんだから」
智「賭け?」
はあ?
どんだけ自信無いんだよ。
俺の事ずっと見てたのに気付かないなんて。
智「いつ…、おれが翔くんを好きだと思ったの?」
翔「貴方が退院して、俺とランチを取る様になってからかな…」
おっそ。
智「なんでそう思ったの」
翔「なんかね、違う気がしたんだよ」
智「違う?」
翔「ずっと見てきたから、智くんの楽しそうな顔とか、嬉しそうな顔は知ってたけど」
智「うん」
翔「だけど、カフェで俺を待ってる貴方は」
あ、ちょっと照れてる。
翔「見た事無い顔してた…」
目を細めた翔は綺麗だな。
翔「なんだかソワソワして、落ち着かないって言うか」
真っ直ぐ俺を見る目も、凄く綺麗だ。
翔「俺を待ってる貴方は、凄く可愛かった…」
そうか、自分でも気付かないうちに、出ちゃってたんだな。
翔「…まだ、聞いてないよ?」
愛しそうに俺の頬を触るんだ。
翔「俺は、勘違いしてた?」
俺がNOと言わないのを分かってる聞き方だ。
翔「ねえ、教えて…」
自信の無い奴が、こんなキスをする訳無い。
俺を吸い込むその瞳をゆっくりと近付けて、ふんわりと俺の唇に触れる。
翔「智くん…」
俺が翔を押し退けないのを知っていて、唇を押し付けるんだ。
智「ん…」
触れただけで俺の力は抜けてしまうのに。
智「しょ、う…」
その緩んだ俺の唇に、翔は遠慮せず入ってくるのに。
翔「俺の事、好きなんでしょ…?」
ああほら、また、脳が痺れた。
智「遅いんだよ…」
気付くのが遅いんだ。
なのになんだよこんなキス。
ヘタレなのか自信家なのか、ハッキリしろ。