不透明な男
第15章 嘘
部屋に一緒に居たなんて言ったら、警察に関係を聞かれるだろ?
え~ あ~、僕はこの人のストーカーです。とか言えないからさ。
だから通行人のふりをしたんだよね?
そんで、僕の勤めている病院にとかなんとか言ったんだろ。
そうしたら記憶を忘れているもんだから。
翔をストーカーだと思い込んでいた俺の記憶をリセットするチャンスだとばかりに、お前は喜んだだろう。
初対面のふりをして、俺を心配する医者のふりをして。
そしたら、思いがけず俺が翔になついたから、お前は嬉しくなって俺との距離を詰めてしまったんだ。
折角のチャンスだったのに、お前は只のストーカーに逆戻りだ。
翔「夕焼け、綺麗だね」
智「うん、綺麗」
ストーカーの正体に気付いてしまった俺を見て、愕然としただろう。
智「翔くんも、綺麗だよ」
翔「え、俺?」
翔から逃げる俺を、どんな気持ちで見てた?
翔「智くんも綺麗だよ」
ごめんね?
俺がやってたんだ。
智「おれなんて、綺麗じゃ無いよ」
翔は怖いストーカーなんだって、脳に思い込ませてたんだ。
翔「もう、まだそんな事言ってるの?」
だってずっと好きだったんだ。
智「いや、そうじゃなくてさ」
5年前だろ?
知ってるよ。
智「おれ、嘘つきなんだよ?」
まだ大学生の翔に出会ったんだ。
あの翔は面白かったな。
髪も明るくて、ピアスなんてしちゃってさ。
翔「こんな綺麗な目をしてるのに?」
医学部で、賢い筈なのになんかチャラくてさ。
智「どこ見てんだよ」
相当イケメてる奴なんだろうと思ったのにさ。
智「おれの目、綺麗なの?」
俺の目の前に来た翔は、急に顔を真っ赤にして、モジモジしちゃってさ。
あ? なんだコイツ。見た目と違うなって。
面白い奴だなって、思ったんだ。
翔「綺麗に決まってるでしょ」
智「節穴だな…」
俺を見てる事、ずっと知ってたんだ。
知ってて知らないふりしてた。
お前をストーカーにしたのは、俺なんだ。