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不透明な男

第15章 嘘




5年前、俺は21歳で翔はまだ20歳だった。

荷物の搬入のアルバイトをしていた俺は、翔の通う大学にも行っていたんだ。

大きな台車にこれでもかと荷物を乗せ、購買部はどこだとキョロキョロしていた。


智『あっちだったかな…』


クソ重い台車をグッと押す。
その拍子に荷物はガタガタと崩れ落ちてしまった。


智『あ~あ…』


全くなんだってこんなに重いんだと文句を言いながら荷物を拾い集める。
そんな俺の目の先に白いスニーカーが近付いてきた。


翔『大丈夫?』


荷物を拾ってくれたのか、その男は俺に聞くんだ。


翔『ここに乗せればいいの?』

智『あ、うん』


顔を上げてその声を見てみれば、下を向いて片手でスッと荷物を拾う男がいた。

俺の様に地面に這いつくばる訳でもなく、スマートに拾う姿が眩しくて。


お洒落だなあ…


こんないい私学で、しかも小脇に抱えているのは医学書だ。



医学部か

着てる物も良い物そうだし、金の苦労なんてした事も無いんだろな…



俺はと言えば、肝心な記憶も戻らずに親も何処に居るのか分からない。
記憶が戻るのを待ちながら、日々暮らす金の為に働いていたんだ。


翔『これで、全部かな』


スマートに荷物を拾い上げ、地面を見回す男は明らかに育ちが良さそうだ。



んで茶髪にピアスかよ

大学生活満喫してやがるなちくしょう



智『ありがとう。助かったよ…』


その出で立ちに少し悔しさを覚えながらも、感謝の言葉を延べた。


翔『あ…、い、いえ』


目があった男は綺麗な瞳をしていた。
その輝く瞳をまんまるにさせて、何故か言葉に詰まるんだ。


智『…? あの』

翔『はっ、はい』



なんだ?

急にカチコチになったぞ。



智『購買部ってどこ?』


顔がどんどん赤くなってくる。
俺を見て、目をまんまるにさせて固まっている。


智『聞いてる?』

翔『あっ、あ、すいませんっ、購買部ですよね!』


顔を赤くした男は、しどろもどろになりながら俺に購買部への行き方を説明してくれたんだ。


智『…ふふっ』

翔『えっ?』


それが可笑しくて、つい笑いが溢れた。


智『見た目と違うんだね。ふふ、面白い…』


また固まった。
その時はどうしてか分からなかったけど。


あの時、俺に惚れたんだろ?





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