不透明な男
第15章 嘘
偶然じゃなく、必然だった。
翔が無理矢理、必然にしていたんだ。
『重いでしょ。手伝うよ』
智『え、でも授業は?』
『まだ時間あるし、なんなら通り道だから』
智『そうなの? じゃあ助けて貰っちゃおうかな。ありがと♪』
こんな風にさ。
偶然を装って声を掛けてくる奴は沢山いた。
なのに翔は見てるだけなんだ。
俺の背に視線を突き刺しておきながら、出てきやしない。
俺だってね? 別に男に興味あるとかそんなんじゃ無いんだ。
当たり前の様に女の子が好きだったし。
それに俺は、男にもモテたが、どちらかと言うと若い男よりもオジさんにモテた。
オジさんにモテてドキドキする訳が無いだろ。
なんならちょっと気持ち悪いな、そんな感じだったんだ。
なのに翔の視線は不思議と気になった。
俺に声も掛けずに只視線を送り続ける。
おれの事が好きなのか?
いやいや、あんな坊っちゃんがそんな訳…。
『翔くーんっ』
女の子の甲高い声が聞こえる。
『ねね、ここ教えてよ。約束したでしょ』
チラッと声の方を見やると、翔は既に腕を取られていた。
翔『や、今はちょっと』
『だーめ。ほら、早くいこ?』
翔『ええ? ちょ、ちょっと待って』
引き摺っていかれた。
そりゃあな、モテるわな。
だってあの風貌にあの坊っちゃん感。
しかも将来性のある医者の卵だろう?
周りの女が放っておく訳無いんだ。
なんだかな…
当たり前の事なのに、なんだか胸がきゅっとした。
無理矢理連れていかれた感じを出しておきながら、翔の顔はそんなに嫌そうでも無かった様に見えた。
俺だって別に男が好きな訳じゃ無い。
アイツだってそうなんだろう。
なんだか分からないがちょっと俺の事が気になっただけだ。
俺だってそうだ。
あの変な視線が、気になっただけなんだ。
俺は女が好きなんだよ
なのになんだコレ
変な視線送りやがって…
なんだかモヤモヤする胸の内を、変な視線のせいだと思う事にしたんだ。
なのにその視線は俺に絡まり続ける。
モヤモヤを拭い去れずに、更にモヤモヤを纏う。
気持ち悪いんだよ。
俺の、このモヤモヤが。