不透明な男
第15章 嘘
櫻井翔。ターゲットはコイツだ。
俺をモヤモヤさせておきながら、何のアクションも起こさない。
いい加減イライラしてきた。
俺が何故お前の名前を知っているか分かるか?
いつの間にか俺はお前の術中に嵌まっていたんだ。
その視線が気になって気になって。
自然と俺は翔を探していたんだ。
大学で見掛ける翔は、いつも参考書を小脇に抱えていた。
そこには、律儀にマジックで名前が書いてあったんだ。
だから俺はお前の名前を知ってるんだ。
聞かなくたって、もう分かってんだよ櫻井翔。
そのいち。
目の前でわざと荷物を崩す。
智『あっ』
これなら話し掛けられるだろ?
だって一番最初に会ったシチュエーションと同じだ。
『大丈夫?』
智『あっ、うん…』
翔じゃ無いじゃないか。
何やってんだアイツ。
そのに。
翔の前で迷子になる。
智『あれ~、おかしいな…』
校内マップを片手にキョロキョロと辺りを伺う。
翔はすぐそこだ。
流石にこれはイケるだろう。
『何処に行きたいのかな?』
智『あ、えっと』
誰だよこのオジさん。
教授か。
そのさん。
ちょっと怖いけど、財布を落とす。
ぽと
早く持ってこい。
俺の財布だぞ。
大事なんだ。
『落としましたよ?』
智『えっ? あ、ありがとう』
メチャクチャ可愛いなこの子。
って違うし。
3週に渡って仕掛けてきた。
3週だぞ?
流石に1日でやったらおかしいかと思ってちょこちょこやったんだ。
だけど駄目だ。
翔はバカだ。
モジモジしてるだけで何も出来ないじゃないか。
そのよん。
今まで知らんぷりを決め込んでいた視線を合わせる。
じーっ
来た。翔の視線。
チラッ
少し小首を傾げ、視線の方に振り向いてやった。
プイッ ササッ
は?
あり得ないぞ。
プイッてなんだよ。
ササッてどういう事だ。
折角目を合わせてやったのに、事もあろうか猛ダッシュだ。
智『…ぷっ』
なんだアイツ。
本当に馬鹿だな。
智『くくっ、んふ』
あの逃げ方なんなんだよ。
面白すぎて、笑いが止まらないだろうが。