不透明な男
第15章 嘘
智「助けてくれなかったの? ひっど」
翔「ちが、助けようとしたんだよ!だけど、一足遅かったって言うか」
ほら、あのバイト仲間のさ、なんて話し出すんだ。
岡田の事も知ってるとは。
智「翔くんが助けてくれてたら、こんな時間掛からなかったんじゃ無いの…?」
翔「だよね…」
智「5年だよ? スッゴいよね」
翔「俺の愛の深さ、分かるでしょ?」
じゃあ、俺の愛の深さも分かるよな?
5年だぞ?凄いんだぞ?
智「あ~、そう言えば、バイトで大学に行ってた様な…」
翔「話そらさないでって、何、バイトの事も今思い出したの?」
智「うん」
嘘だけどね。
智「そこで翔くんに会ったんだ?」
翔「貴方からしたら、一度だけね」
智「一度?」
翔「その後は、俺が一方的に見てたから」
だから、俺も見てたんだってば。
全く気付いてないんだな。
翔「でも、その内業者が変わっちゃってさ。貴方は来なくなった…」
智「ふふ、寂しかったんだ?」
翔「当たり前でしょ」
俺も寂しかったよ。
何故翔が俺を見てたのか、結局聞けなかった。
なんだかモヤモヤしたままで、気持ち悪い胸の内を抱えながらも、大学には行かなくなったんだ。
智「でも、それからも見てたでしょ…?」
翔「…探したんだよ」
翔は俺を探したんだ。
搬入作業中にも、色んな人に声を掛けられるから、俺はちょこちょこ話をしていた。
それを翔は聞いていたんだ。
翔「貴方が良く行くって言う街に行ってみたり」
智「うん」
翔「貴方のお気に入りの公園や、カフェとかお店とか。とにかく色んな所に行ったんだ」
そうなんだ。
翔は色んな所に居たんだ。
俺は驚いたよ。
またこんな偶然凄いなって。
だけどね。
本当に色んな所に居たんだ。
こんな偶然あるか?って位に。
いやいや、これは偶然なんかじゃ無いだろって。
それはコンビニだったり、電車の中だったり。
執拗なまでに俺の姿を追うんだ。
俺はいつしか怖くなった。
最初はその視線が楽しくて、面白かった。
だけど、ここまでになってくると、誰だって怖くなるってモンだろう?
だからだよ。
俺の気が変わらない内に話し掛ければ良かったのに。