不透明な男
第15章 嘘
智「ああ、それは覚えてる…」
翔「えっ」
智「何処に行っても、視線がベッタリと張り付いて来たから」
翔「こ、怖かった? よね?」
智「うん…。怖かったし、気持ち悪かった」
翔「き、気持ち悪…っ、ご、ごめん…」
智「ううん。おれこそ、ごめん」
翔「どうして智くんが謝るの」
智「翔くんの気持ちも知らないで怖がっちゃって…。ごめん、ね?」
翔「智くん…」
怖い方が勝っちゃってさ。
もう気持ちとか、そんなの考えられなかったんだよね。
なんで着いてくるんだ。
家の近所のコンビニだって、仕事場の近くのコンビニだってその視線は俺を纏うんだ。
なんだこれ、ヤバい奴だったのかなって。
そんな矢先、俺は2度目の記憶を無くすんだ。
またすっぽりと記憶の抜けた俺は、翔の事も綺麗サッパリ忘れた。
それまで、その視線に怯え、避けるように過ごしてきた。
そんな俺が急に視線を気にしなくなった。
そんな俺の態度が、お前には不思議だっただろう。
でも、それと同時にショックだったんじゃないか?
少なくとも、怯えていた頃はその視線に気付いていたんだ。
なのに急に気付かなくなった。
翔の存在を無視するかの様な俺の態度に、ヤキモキした筈だ。
だからとうとう俺の家まで着いてくる様になったんだろう?
その視線の存在に再び気付いた俺は、また逃げたんだ。
今度は嘘じゃなくて、本当にヤバい奴だと思った。
誰だか分からないけど、俺を着けている奴がいる。
四六時中俺を監視して、刺さるような視線を送ってくる奴がいると、俺は本気で怖がったんだ。
たまに感じる温かい視線。
それも同一人物だと分かった。
だけど、その意味は全く分からなかった。
只、俺の中の何かが疼いたんだ。
モヤモヤと、胸が曇った。
あの視線に何かあると、俺は思ったんだ。
だけど、その気持ちは思い出しちゃいけないような、そんな気がしてた。
智「鋭いんだよな…」
翔「え?」
智「視線。なんか、胸がえぐられるような、そんな感じがしたんだ」
翔を忘れていたのに、そんな感じがしていた。
俺の真相心理が、胸の痛みとして表れたんだろうか。