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不透明な男

第15章 嘘



智「そう言えばさ、俺を見付けてくれたのって誰なの?」

翔「へっ?」

智「あんな所で倒れてたのにさ、よく見付けて貰えたなって」

翔「あ、ああ」

智「お礼を言いたかったんだけど、翔くん知ってる?」

翔「や、え…っと、ちょっとそこまでは…」


ほほう、惚けたな。
白状したら、俺も少しは話してやってもいいかなと思ったけど、やっぱやめた。

だってあの時の翔は完全なるストーカーだったんだ。

あまり思い出されたく無い過去なんだろう。

でもたぶん、俺が言ったら素直に認めるんだろうな。
ごめんなさい、とかって謝り倒すのが目に見えてる。






智『んぅ…』


なんだってこんな甘い息。
俺は一体どうしたんだ。


翔『智くん…』


その声で俺の名を呼ばれた記憶は無い。
その顔だって、今初めて見たんだ。

なのにどうして俺はコイツのされるがままになってるんだ。


智『ん、ぁ』


脳が痺れる。
胸がジンジンと熱くなって、俺の中が疼くんだ。


翔『好きだよ…』

智『…っ』


その声を聞いた途端、俺は翔を弾き飛ばした。


智『っ、はぁっ、な、何を言って』

翔『どうしたんだよ…。貴方もでしょ…?』


俺が、コイツを好き?
そんな訳…


智『…っ』


胸が痛い。苦しい。


翔『え、どうしたの…』


頭も割れそうだ。


翔『智くん?』


駄目だ。
そんな事は許されないんだ。


翔『ちょっと、しっかりして!』


大学で見たじゃないか。
コイツはいいとこの坊っちゃんで、将来有望なんだ。


智『う…』


訳の分からない黒い渦に巻き込まれてる様な俺が、コイツに釣り合う筈無いんだ。


翔『智くん!』


俺の大事な奴は、皆俺の前から居なくなる。


俺がコイツの事を好きだなんて言ったら、コイツだって消えてしまうんだ。



好きなんかじゃない。

只のストーカーだろ?

だってコイツが誰だかも分からないんだ。



翔の事を忘れていた筈なのに、何故かおかしな感情が俺の中に沸き上がってきた。

でもそれは抑えなきゃいけない。
思い出しちゃ駄目なんだと、俺の脳が言うんだ。



もう、大事な人が居なくなるなんて嫌なんだよ。



だから、お前の事なんて、好きなんかじゃないんだ。





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