不透明な男
第15章 嘘
翔「倒れてた時の事、何か思い出した…?」
智「ん? や~、特には」
ちょっとビビりながら聞いて来る。
智「背中の打撲はさ、BGで付けたんだろうし、顔は…、あれはどう見たって倒れた拍子に付いただけなんじゃん?」
翔「まあ、そうかな…」
翔だって分かってたんじゃんか。
俺も結構な嘘つきだけど、お前も大概だな。
智「暗くなってきたね」
翔「うん…」
翔の大荷物を見たら、取り敢えず泊まる気だったってのは分かる。
まあ遠いし、日帰りなんて無理なんだけど。
智「ね、1ヶ月だよ…?」
翔「ん?」
小首を傾げて翔を覗くんだ。
翔「そっ、それが、何っ?」
あ、これだよこれ。
智「1ヶ月も放置されてさ」
翔「うっ、うん」
ゆっくりと翔の耳に顔を近付けるんだ。
智「疼くんだよね…」
耳まで真っ赤じゃんか。
智「おれのアパート。ちっこいけど、ベッドならあるんだよ?」
翔「へっっっ」
これが見たかったんだよな。
智「なんだよ、やなの?」
翔「やややや、嫌な訳無いでしょう!?」
やっぱ翔はこうじゃないと。
智「かえろ?」
翔「いっ、いいのっ?」
来る気だったくせに。
智「やなの…?」
翔「だから、行くに決まってるでしょうよ!」
俺は立ち上がって、未だ座ったままの翔を見てた。
そしたら翔は、急に立ち上がって俺をむぎゅっと抱き締めるんだ。
智「駄目」
翔「え」
智「人、いる」
翔「そんなの、関係無いよ…」
あんなに挙動不審だったのに、急に色気を出すんだ。
俺の顎を掴んで引き寄せる。
智「駄目だってば」
でも許してやらない。
智「家に帰って寝るだけだよ? 何か変な事考えてるでしょ?」
翔「え、寝るだけ…?」
ほら、固まった。
智「当たり前じゃん。他に何かある?」
翔「え、だって疼くんだよねって」
智「眠りが浅くてさ。でも、翔くんと一緒なら良く眠れそうだなって思って」
翔「は?」
智「おれの、睡魔が疼くんだ」
もう眠くて堪んないよと、伸びをした。
その横で翔はポカンとしている。
これだから翔は面白いんだよな。
お前は俺を捕まえた気でいるんだろうが、実際は違うんだ。
俺がお前を、離してやらなかったんだよ?