不透明な男
第15章 嘘
智「で、吹っ切れたの?」
翔「見たら分かるでしょ。吹っ切れる訳無いよ」
やっと翔の顔を見れた。
翔「なんか、抱けなくてさ。キスしても、智くんの唇はどんな感じなんだろう、智くんの温度はどんな温かさなんだろうって、貴方の事ばっかり」
智「やっぱキスしてんじゃん…」
俺の事で頭がいっぱいだったのはちょっと嬉しいけど、また顔が見れなくなった。
俺って本当ずるいな。
翔「抱き締めても、頭を撫でても頬を触っても、瞼に映るのは貴方ばかりで」
細かいなちきしょう。
俺、こんなに打たれ弱かったっけ。
翔「耳だって首筋だって、俺がいつも見てる貴方とは全然違ってさ」
もう泣きそうだぞ?
翔「声だって…、貴方なら、どんな甘い声を吐くんだろうって」
泣くぞ?知らねえぞ?
俺は拗ねたら長いんだ。
翔「もう貴方しか出てこなくて、触られたって何の反応も…」
智「も、いい」
翔の一歩前を歩いていた。
振り向かず、少し俯きながら短く言う俺の肩を、翔が掴む。
翔「智くん?」
振り向いてやらないんだ。
翔「え、どうしたの…」
振り向かなかったから、翔が前に回り込んできた。
翔「泣いてるの…?」
智「泣いてない」
俺の顔を覗くから、ついプイッとそっぽを向いてしまった。
翔「唇が尖ってるよ…?」
しまった。
なんですぐ尖るんだ俺の唇め。
翔「抱いてないよ?」
智「分かったよ…」
分かってるよ。
分かってるけどさあ。
なんか、その手で優しく触ったのかなとか、考えちゃうじゃんか。
翔「言っとくけど、俺、智くんが初めてだからね?」
智「うん…、ん?」
思わず翔をチラ見した。
赤くなってモジモジしてる。
智「んん? え? 何?」
翔「だから…、俺が抱いたの、貴方が初めてなんだけど」
なんて?
俺は26歳だ。
てことは、翔は25歳だ。
智「あ、ああ、男を、ね」
翔「じゃなくて」
どゆこと?
智「まさか、抱かれた事ならあるけど、とか?」
翔「~~~じゃ、なくてっ」
え、マジで?
智「女も、抱いた事無い、とか…?」
翔「悪い?」
びっくりだよ。
お前はよく俺を驚かせる。
てことは、俺は翔の初めての奴なのか。
なんか胡散臭いな。