不透明な男
第16章 透明な男
翔「どうしたの? ほら早く」
智「うん」
こんな小さな部屋でも椅子は二つあるんだ。
小さいテーブルに小さい椅子が二つ。
翔「結構お洒落だよね」
智「ん?」
翔「このアパートもさ。結構年期が入ってて、アンティークって言うのかな」
智「でしょ?」
こんなの駄目なんじゃないだろうか。
だって平和すぎる。
翔「やっば」
智「え、美味しくなかった?」
翔「くっそうまい」
智「は?」
コレやばい、くそうまいと翔は食事を口に詰め込む。
智「ふふっ」
どうやら完全に自分を解放したようだ。
だってあんな言葉使い、今まで聞いたことがなかった。
智「死なないんじゃなかったの?」
翔「もご?」
智「そんなに詰め込んだら死んじゃうってば」
頬をパンパンに膨らませて翔は言うんだ。
これ美味しいよ、貴方絶対好きだよって。
智「なんでおれの好みわかるんだよ」
翔「それくらい分かるよ。ずっと見てたんだから」
楽しいな。
楽しいよ翔。
翔「やっと笑った」
俺の緩んだ顔を見て、翔は微笑むんだ。
翔「その顔、見たかったんだよな…」
智「ふふ。おれもだよ…」
俺の笑った顔を見て、翔は嬉しそうな顔をする。
嬉しそうに細めた目を、俺に近付けてくるんだ。
翔「ちゅ」
少し照れながら俺の頬に軽いキスをする。
さっき、貴方やったでしょ?と言いながら。
翔「ほっぺのキスも、いいもんだね」
智「された方が言うんじゃないの?」
翔「そうだけど…、貴方のほっぺ、気持ちいいよ」
こんなに幸せで、大丈夫なのか。
後で大きな不幸が襲ってくるんじゃないだろうか。
俺の悪いクセだ。
もうおかしな考え方はするんじゃないと、あの二人にも言われたじゃないか。
智「丸顔だからね(笑)」
翔「それがいいんだよ」
お前のさっきの言葉、信じてもいいか?
俺は居なくならない。
俺は消えないよってやつ。
今度こそ、本当に捕まえるぞ?