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不透明な男

第16章 透明な男




智「消すよ?」

翔「はーい」


食事を済ませてシャワーも浴びた。
翔の次に風呂に入った俺が出てきた時には、既に翔は小さいベッドに転がっていた。

もうすぐで寝てしまいそうな翔にそっと布団を掛けてやると、目をパチッと開けたんだ。

安心したら急に睡魔が襲っちゃって、と翔は俺に謝る。
だから俺は、長旅疲れたでしょ?寝ていいよと布団を掛け直してソファーに向かおうとしたんだ。

すると翔は急に俺の手首を掴んだ。
何処に行くつもり?ここで一緒に寝ればいいでしょ?と。



翔「はい、どうぞ」

智「ふふ、ありがと」


照明を切った俺がベッドに入りやすい様に、布団を捲って待っているんだ。

俺がそこに滑り込むと、翔はニコッと笑って横になる。


智「じゃ、おやすみ」

翔「う、うん、おやすみ」


あまりに俺があっさり寝ようとするから、翔は少し残念そうだ。
だけどこの小さいベッドでは、隣の翔と身体はくっついて、優しい息遣いまで聞こえる。


智「あったかい…」

翔「ね」


俺はこの温もりに包まれて眠るんだ。
優しくて、あったかくて、とても甘い。


智「すぅ…」

翔「ふふ、寝顔も可愛いな…」


翔の声を聞きながら、幸せの内に眠りに落ちる。

こんなにあったかくて、幸せで。

だけどそんな中で、ぼんやりと考えてしまうんだ。

もう考えない様にしないと。

俺は、翔の言葉を信じるんだ。


もう、悪い方に思い込むのは、辞めなきゃな。





智「う…」


あれ…?


智「駄目だ、よ」


なんだあの渦…


智「捕まっちゃ駄目だ…」


やっぱり俺から出てるのか?


智「早く、逃げ…」


俺の渦が翔を襲う。

翔を黒く塗り潰そうとしている。


智「やめ、ろ…っ」


どうしてだ。

何故なんだよ。



こんなにあったかいのに、俺の不安は現れてしまうんだ。





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