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不透明な男

第16章 透明な男



翔「…としくん? 智くん!」


心配そうに俺を呼ぶ声が聞こえる。


智「あ…」

翔「大丈夫? しっかりして」


目の前には、やはり心配そうな顔をした翔がいた。


翔「魘されてたよ…?」


俺の額に滲んだ汗を翔の手が優しく拭う。


翔「いつも、こんななの?」

智「いや…」


未だに見ていた。
日本を出て、翔を手離した。
だからもう見ないだろうと思ってた。
だけど、俺の捨てきれない気持ちが、その夢となって現れるんだ。


翔「水でも飲む?」

智「うん…」


翔と再会して、忘れようとしていた気持ちが揺り起こされた。
翔の笑顔を見ると、ずっと笑っていて欲しくて。
だからこそ俺は捕まえちゃ駄目なんだと。

うっかり捕まえてしまいそうになった俺に、夢がそう訴えるんだ。


翔「はい」

智「ありがと…」


水を飲む俺の髪を優しく撫でる。
愛しそうに、心配そうに。


翔「どんな夢を見たの?」

智「…あんまり、覚えてないや」


サイドテーブルに、コトッとグラスを置く。
すると翔は、その狭いベッドの上で俺をぎゅっと抱き締めるんだ。


翔「抱えないで」

智「え?」

翔「言っていいんだよ? 俺が、聞くから」


俺の背中から翔の温もりが伝わる。
後ろから俺を抱き締めて、離す気なんて更々無いとでも言うようにガッチリと俺を閉じ込める。


智「ふふ、苦しいよ」

翔「どうしてそんなに泣きそうな顔するの」


後ろから首を伸ばして俺を覗く。


智「ちょっと、夢が怖かっただけだよ」

翔「覚えてないのに?」

智「だからそれは…」


嘘を付いているのがバレているのだろうか。
そんな嘘は言わなくてもいいんだと、翔は俺の唇を塞ぐんだ。


智「ん、しょ…う…」

翔「そんな不安そうな顔してるのに、どうして何も言わないんだよ」

智「そ、んな顔、してな…」


何をどうしたのか、翔は器用に俺をベッドに押さえつける。
俺の両手首を掴んで押さえつけているのに、その力はとても優しくて、俺は全く痛くないんだ。


翔「俺が、受け止めるから」


だから何を言ってもいいんだと、その真っ直ぐな瞳で、俺を覗くんだ。






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