不透明な男
第16章 透明な男
翔「まだ、あの社長の夢を見てるの…?」
智「違…、それは、もう、終わった事だよ…」
ああ、あったかいな。
翔「じゃあ何を…」
どうして翔のキスはこんなにも温かいんだろう。
翔「目が、潤んでる…」
駄目なのに、抵抗なんて全く出来ないんだ。
それどころか、俺の腕は翔を掴みたくてウズウズしてる。
翔「泣きそうな程、辛い事がまだあるの…?」
優しいんだよ、翔の全てが。
俺を掴む手も、俺を塞ぐ唇も、その声だって。
智「なんでそんなに優しいんだよ…」
さっきから目の奥が熱くて痛くて。
智「ストーカーって、普通もっと怖いじゃんか…」
離せなくなるからやめろよ。
智「駄目なんだ…」
そうだよ駄目なんだ。
俺が捕まえちゃいけない。
離してやらなきゃ。
智「離したくないんだよ…」
なのに俺の口は真逆の事を言うんだ。
翔「智くん…」
涙が溢れた目で翔を見つめてしまう。
すぐそこにいる翔をもっと近付けたくて、俺の腕は翔を掴むんだ。
智「離したくないよ、翔…」
翔の首に腕を回すと、ぎゅっと力を込めもっと俺に近付ける。
ずっとキスをしていたのに、俺はもっと深く翔に口づけてしまう。
智「やっぱ無理だよ、離せない…」
翔「智くん…?」
夢中で翔に貪りつく。
そんな俺を、翔はしっかりと受け止めてくれる。
翔「俺だって離れられないよ」
その優しく響く低い声を俺に伝えるんだ。
翔「貴方の側を離れるなんて、出来る訳が無いんだよ…」
いっそこのまま溶けてしまいたい。
そう思える程に翔は温かく俺を包む。
智「翔くんは、消えない…?」
翔「消えないよ」
智「おれが、捕まえても?」
翔「絶対消えないから」
智「本当に…?」
翔「当たり前だよ…」
言葉の間中、ずっと俺を抱き締めてる。
俺の濡れた頬を撫でながら、身体をピタリとくっつけて。
智「信じていいの…?」
翔「もちろん」
その綺麗な瞳は力強くて、嘘なんてついていないんだ。
真っ直ぐに俺を見て、信じろと訴える。
智「あったかいよ、翔くん…」
素直になってもいいか?
俺の不安を、翔が拭う。