不透明な男
第16章 透明な男
智「はぁ、ぁ…っ、翔、くん…」
翔「綺麗だよ…」
俺は卑怯だ。
嘘つきだし狡いし。
なのにそんな俺の首に唇を這わせながら翔は綺麗だと言う。
智「そんな訳無いよ…、おれ、狡いんだよ…?」
翔「知ってるよ」
その舌は燃えるように熱くて、俺の体温を上昇させるんだ。
翔「俺の事、好きなのかなと思ったら急に突き放したり」
智「ん…」
翔「相当嫌われちゃったな、なんて思うのに、貴方の俺を見る目は凄く綺麗で」
智「嘘だよ…」
翔「嘘じゃないよ。凄く愛しそうで、それでいて悲しそうで…」
そんな顔をしていたなんて気付かなかった。
翔「あんなの気になって、仕方ないよ…」
やっぱり俺は狡い。
完全に翔を離す事も出来たのに、それをしなかった。
捕まえる訳でもない、だけど逃げない様にと、俺の存在を翔にチラつかせていたんだ。
翔「俺は、もうずっと前から貴方に捕まってたんだ」
無意識の内に俺がやってたんだ。
それは、翔を忘れている時だって。
翔「なのに今更捕まえるも何も、無いでしょ…」
智「しょ、う…」
逃げられない様に網を張っておきながら、俺は翔を突き放すんだ。
翔「生殺しだよ…」
本当にその通りだ。
卑怯すぎて言葉も出ない。
智「なのに、おれが綺麗なの…?」
翔「だってその瞳…。俺を見る貴方の目は、綺麗じゃなかったらなんて言うんだよ…」
翔は狂ってる。
俺を好き過ぎて、その目にフィルターが掛かってるんだ。
翔「俺はずっと貴方の掌の上で」
智「…っ、ん、翔…っ」
翔「5年も、耐えてたんだ」
荒い呼吸を吐きながら、翔は俺の下を撫で付ける。
今までの我慢をぶつけるかの様にその手は熱く、激しく動く。
翔「もうあんなのは嫌だよ…。捕まえるなら、ちゃんと捕まえて…」
智「はぁ…っ、翔く、ん…」
その刺激に眉をしかませ、潤んだ瞳を細める。
智「ごめ、ん…」
その言葉を聞くと、翔は安心した様に俺にキスをするんだ。
翔「やっと認めた…」
俺を擦りながら、荒い息を吐きながら。
俺を抱き締めて、翔は安心するんだ。
翔「本当の貴方を見せて…?」
本当の俺。
翔の前で、素直になる時が来た。