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不透明な男

第16章 透明な男





頬にふわりと何かが触れた。
俺はその温もりで目を覚ます。


翔「あ…、おはよ、智くん」

智「翔くん」


目を細める翔に朝日が当たる。
それは凄く淡くて眩しくて、まるで幻想の中にいるみたいだ。


智「眩しいな…」


光を纏う翔が凄く綺麗で、目を細めずにはいられないんだ。


翔「いい天気みたいだよ」


そうじゃなくてね。
お前が眩しいんだよ。


翔「夢じゃないんだね」

智「え?」

翔「目を覚ましても、智くんが隣にいたから」


夢じゃなかった。
淡い光を放つ翔も、幻想なんかじゃないんだ。


智「よかった…」

翔「ん?」

智「翔くん、綺麗なままだね…」


翔は汚れなかった。
黒く濁る事も無く、目映く輝いている。


翔「昨日からその綺麗ってなんなの(笑)」

智「だって、綺麗だから」


真面目な顔をして話す俺に、クスッと笑いながら軽くキスをする。


翔「智くんはね、透明だよ。まるでダイヤみたい」

智「へ?」

翔「今だって凄くまぶしくて、俺の目は眩みそうだよ」


朝っぱらから可笑しな事を言い合う。
明らかに馬鹿になってる。


智「ふふ」

翔「なに?」

智「翔くん、馬鹿みたい…」


俺も馬鹿なんだけどね。
恥ずかしいから、先に笑ってやったんだ。


智「起きよっか」

翔「うん」

智「あ、忘れてた」

翔「何を?」

智「おはよ、翔くん…」


唇を尖らせて翔の頬にちゅっとキスをした。


翔「お、おは」

智「ふふっ」


自分からだと結構攻めてくるのに、俺がすると途端に挙動不審になる。
出会った頃と変わらないその真ん丸な瞳が、俺は大好きなんだ。


智「やっぱその目なんだよね…」

翔「へ」

智「いや、何も」


でもまだ教えてやらない。
喧嘩した時の切り札用にでも取っておこう。


智「ん? どうしたの?」

翔「や、あんまり透き通ってるから、消えちゃうんじゃないかと…」

智「んな訳無いでしょ」


朝日を浴びながら振り向く俺に、翔は真面目に言うんだ。


智「寝惚けてるの?」


小首を傾げて翔を覗き込むと、また真ん丸な目を俺に向ける。


次は何だ?


翔の反応は、俺をワクワクさせる。






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