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不透明な男

第16章 透明な男



翔を覗く俺の前で佇んでいる。
目をまるくして、固まった唇を漸く開いた。


翔「やっぱ運命だよ…」

智「は? 運命?」

翔「そうだよ、運命としか言えないよ」


急にどうした。


翔「ずっと思ってたんだ。こんなにもせつない恋があるのかって」

智「うん…」

翔「俺は男で、智くんも男で」

智「ん」

翔「5年だよ? 普通こんなの叶わないでしょ」

智「翔くんストーカーだったしね。普通なら通報モンだよね」

翔「そうなんだよ。捕まって終わるのが通常…っておい」

智「んふ」


いきなり可笑しな事を言い出したけど、翔は真顔なんだ。


翔「貴方が通報しなかったのも、きっと運命だったんだ」

智「ええ?」

翔「それだけじゃないよ。貴方は俺の病院に来たし、受け持ちの患者さんになった」


受け持ちはたまたまかもしれないけど、病院はお前の差し金だろ。


翔「それに、何故か貴方を見つける事が出来るんだ」


や、だからそれはお前が探すから。


翔「こんな遠い地で、あんな広い浜辺で」

智「だからそれは只の執念なんじゃ…」


呆れかけた俺の肩をガツッと掴んできた。


智「な、なんだよ」

翔「違う、執念の一言なんかじゃ説明がつかない」


大真面目だなおい。


翔「奇跡が起きたんだ。こんなの、運命としか言いようがないよ…」


やっぱり翔はちょっと危ない奴かもしれない。
思考がおかしい。


翔「必ずこうなる運命だったんだよ」

智「こう、とは?」

翔「結ばれる運命だった、って事だよ…」


ガッツリ掴んだ肩から俺の背に腕を回すと、急にふんわりと包んでくる。


翔「俺の腕の中に智くんが居るなんて、まだ夢を見てるみたいだよ」


ちょっと鼻声じゃんか。


智「ふふ、泣いてるの?」

翔「夢みたいで、信じられなくて」


グズグズと鼻を鳴らしながら俺を抱き締めるんだ。
この声もなかなか可愛いな。


智「信じてよ」


俺だって夢を見てるみたいだよ。


智「ほら、ここにいるじゃん」


こうやって触れ合えるんだ。


智「これが運命なら、その運命を作ってくれた神様に感謝だな…」


だから俺は翔に感謝するんだ。



神様はお前なんだから。






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