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不透明な男

第5章 思い出せない男


退院してから1ヶ月が経とうとしていた。


早く思い出さなきゃ。
松兄ぃだっていずれ帰って来るんだし、いつまでもここで世話になる訳にはいかないと俺は焦っていた。



ガチャ

そんな時、扉が開いた。


智「松兄ぃ…!」

兄「智、ただいま」


松兄ぃはニコッと笑って俺を抱き締めた。


智「出張は…?終わったの?」

兄「いや、一時帰国だ」


朝イチの便で帰ってきて、既に一仕事終えたらしい。
そんなに時間は無いらしく、夕方過ぎにはまた飛行機に乗るのだと言う。


智「忙しいんだね…」

兄「いつもこんなんだからな。慣れてるよ。」

智「そうなんだ…」

兄「…なんだ?寂しかったのか?」

智「や、この部屋がね?広すぎるんだよ」


松兄ぃは、強がる俺を更に力強く抱き締めた。


兄「そうだ、コレ」


松兄ぃは俺に何かを差し出す。


智「携帯…?」

兄「スマホだ。無いと不便だろ?」

智「連絡したい所なんて覚えてないよ…?」

兄「俺の番号を入れておいた。」

智「え?」

兄「掛けて来いってんのに、お前ちっとも掛けて来ないから」

智「あ…」

兄「病院のも入れてあるから。何かあったら連絡しろよ。」

智「…わかった。ありがと」

兄「ん」


俺の頭をグリグリ撫でると松兄ぃは出て行った。






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