霧島さん
第2章 お久しぶりです、霧島さん
「…隣、もしかして誰か入ったのか?」
「…うん。今朝…」
「随分変な時期に引っ越してきたな…」
数年間ずっと隣が空き部屋だったから、つい頭から抜けてしまっていた。あんな衝撃的な挨拶を忘れるなんて、私も余程浮足立っていたようだ。
邪魔をされたことよりも、声が聞こえてたんじゃないかということにハラハラする。
先生はそんな私の様子を見て、大きなため息を吐いて隣に倒れこんだ。
「ここ、いい条件そろってたけど引っ越すか」
先生が拗ねたような声音でそう言いながら、私の首元を優しく撫ぜる。
その手は、さっきより少しだけ冷たくなっていた。
「うん。人の領域なんて関係ないってくらいデリカシーがなかったし、私も賛成」
数年間住んでいただけあって寂しくも感じるけれど、あの男は危険だと本能で感じる。
『お隣同士、仲良くしてくださいね』
あのうさん臭い笑顔は、思い出しただけで私の顔を思いっきり歪ませた。
「待てよ」
「え?……?!」
と、先生の普段より低い声が耳に届いた刹那。
ひゅっと、息が詰まった。
でもそれは、自然とそうなったのではない。
「なんだよ、その会って話したかのような口ぶりは」
先ほどまで、私の首元を愛おしそうに撫でていた先生の手が、恐ろしい程の力で私の首を絞めつけているのだ。