霧島さん
第3章 霧島さんと志月蛍
「志月さん」
「ふはっすみません。教えてあげますから、こっち来てみてください」
「はぁ、」
なんだか遊ばれているような気もするけど、ニヤニヤされる方が嫌だったわたしはのっそりと立ち上がり、床に足をつけた。
瞬間。
「!?」
私が状況を飲み込むより早く、バランスを崩した私を志月蛍は胸の中に迎え、支えてくれた。
ふわりとシトラスの香りが鼻腔を擽り、ぴったりと密着した体が昨日を思い出して、少し体温が上がった。
「あ、ありがとうございます、」
「どういたしまして。ね、わかりました?」
「…はい。十分に」
立てないことに動揺した私を再びベッドに寝かせると、そのまま志月蛍がするりと頬を撫でる。
その優しい仕草に、不覚にもどきりとしてしまった。
「これから霧島さんには体力を作ってもらわないとですね」
「流れではいって言うと思ったら大間違いですからね」
「ツンの霧島さんだ」
上がった体温がものすごい勢いで下がったのがわかった。
またあんな立て続けに攻められるなんて懲り懲りだ。私の身がもたない。
「疲れて帰ってきた時は優しく労ってくださいね」
「…遅刻しますよ」
にこやかに笑った男から逃げるように布団を被ると、志月蛍が笑った気配がした。
もうこの男に笑われるのは何度目かわからないけど、不思議と嫌な気持ちにはならない。
調子に乗りそうだから絶対に言わないけど…。