霧島さん
第3章 霧島さんと志月蛍
あの様子じゃ動けないだろうと思ってたけど、霧島さんは思いの外タフらしい。
何処にいるのかは予想がつくけれど。
「……?」
と、ネクタイを緩めながらベッドに座って、異常に気づく。
なんだ?この匂い…。
すん、ともう一度嗅ぐと、ふわりとかすめる芳ばしい香り。
…もしかして。
パチッと電気をつけると、その芳ばしい香りの原因が目に飛び込んできた。
机の上に置かれたコーヒーと、プラスチックの箱に入ったスーパーのショートケーキ。20円引きと貼られたシールを剥がさないあたり彼女らしいと笑ってしまう。
もしかして、買いに行ったのだろうか。あの生まれたての子鹿のような足取りで、
人と向き合うのが怖くてたまらないはずなのに、俺のために。
店員に震えながらケーキを購入する霧島さんを想像して、口が緩む。少し、見てみたかったかもしれない。
「ん?」
ケーキの箱を手に取ると、下に小さな紙が置かれてあった。しかも文字もかなり小さくて、右端にちまちまと書かれてある。
【お誕生日おめでとうございます。ご飯美味しかったです】
「ふはっ律儀だなあ」