霧島さん
第3章 霧島さんと志月蛍
ケーキを置いて、マグカップに注がれたコーヒーを手に取る。
明らかに色味がおかしいこれは、お湯と粉の配分を間違えているに違いない。
怖いものほど興味をそそられるのは本当なようで、俺はゆっくりとコーヒーを口にいれた。
「………これは人間が飲むもんじゃないな」
本当に、よくこんなので生きてこられたよなあ、と思う。
俺は一旦コーヒーを置いて、ベランダに向かった。
錆びた鉄に乗り上げると、ミシッと悲鳴をあげる。
こんな不安定な場所を通ったのか。また想像して笑みが零れる。
何故か楽しくなってきた俺は、隣のベランダに降りてそっと中を覗いた。
「ーー…やっぱりここか、」
部屋の隅にあるベッドが丸く膨れて上下している。顔を出していないところを見ると、やっぱり寒かったのだろう。
「本当に何もないな…」
明るくなりすぎないよう豆電球にしてから見渡すけれど、ベッドと机以外何もない殺風景な部屋は、女の子が住んでいるとは思えない。
キッチンにはカップラーメンやレトルトばかり置かれてあって、きっと例の先生が持ってきたものなのだろう。
あと気になるものはーーー…
ブーッブーッ
「、」
と、くぐもったバイブ音が突然聞こえてきてハッとする。