霧島さん
第3章 霧島さんと志月蛍
▽▽▽
今日はどっと疲れた。
ドアノブを何度も握っては離し、握っては離しを繰り返してやっと出た外は、一面が銀世界だった。
綺麗だと心底思った。
正直言うと久しぶりの外にわくわくしていたし、志月蛍とは普通に話せるのだから、スーパーなんて簡単なミッションだろうと変な自信を持っていた。
なのに――…。
「うええええええッ」
スーパーに入って数分後、私はトイレで吐いていた。それはもう、盛大に。
すれ違う人の匂いとか、気配とかを感じるだけで気持ちが悪かった。おつりをもらう時店員さんの手が触れた自分の手も洗いたくてたまらなかった。
泣きじゃくりながら帰る私は一体どんな目で見られていたのか…。
それと同時に、「志月蛍」は特別なんじゃないかということを自覚して、たまらなく恥ずかしくもなった。
志月蛍は特別なんかじゃない。
特別なんかじゃ――…。
「あ、起きました?おはようございます」
「。」
寝起きで霞んだ視界で、爽やかに笑う男が一人映り込む。
…なぜこの男が私と同じベッドで寝ているのだろうか。しかもちゃっかりとこの男の部屋に運ばれてるし…。