霧島さん
第3章 霧島さんと志月蛍
そんな私に気づいているかのように、志月蛍は少しだけ体を離すと、私の頬を手で覆った。
そして私の顔を見て大きくため息を吐くと、コツンとおでことおでこをくっつけさせた。
「君は本当に大馬鹿者だ」
「え、」
「俺のために外にまで出てケーキを買ってきたり、淹れたことのないコーヒーを淹れたりしてるその行動の意味、わかってますか?」
「そ、れは…お礼をしようと…!というかなんで淹れるのが初めてってわかるんですか!!」
「わかりますよ」
大馬鹿だと言われてムッとした私がそう言った瞬間、唇が塞がれる。
チュ、と舌と舌を軽く絡められるだけで離れてしまったけれど、彼が残した甘美なはずの味はひどく……
「に、にが……ッ」
口内に広がるのは間違いなくコーヒーだけどコーヒーじゃない。
味見もせず置いてしまったけれど、これは人が飲めるものじゃないと断言できる。
あまりの苦さに、私の顔が自然と険しくなったのが分かった。
「こんな珍味なコーヒー、なかなか飲めませんよ。ご馳走様です」
「えっも、もしかしてこんな苦いコーヒー全部飲んだんですか…!?」
そう言いながらあまりの苦さにウッと舌を出していると、小さな声をあげて笑った志月蛍が再び舌を絡めるキスで私を捕まえた。
チュル…チュ…、
「ンッ…ンンッ」
苦いはずなのに、彼が深くキスをする度に甘味が増して病みつきになりそうだ。
「あっ…ンンッ志月さん、」
深く唇を合わせている間、隣にいた志月蛍が徐々に体を起こして、私の上に覆いかぶさる。
私を見下ろすその瞳が熱く揺らめいているのを見て、私の気持ちも昂ってゆく。
「霧島さん。あんまり可愛いことばかりしないでください」
「志月さんこそ、あまり知らない人にならないで」
朝のセットされた髪を思い出して、彼の髪に指を絡ませる。
「いいですよ」
その手をとった志月蛍は小さく笑うと、まるで忠誠を誓う騎士のように、私の手のひらにキスを落とした。