
霧島さん
第4章 志月さんの秘密
どうしよう。
私、この人と離れたくないって思ってる…?
「霧島さん?」
「っあ、すみません。お腹…空いたなと思って、」
急に口を閉ざした私を不思議そうに見てきた彼に、咄嗟に嘘をつく。
なんでかわからないけど、引越しのことはこの人に言わないほうがいい気がしたのだ。
「あれ、サンドイッチ足りませんでした?」
「いっいえ。そんなことは…。でも口が寂しいっていうか、座りたいっていうか、」
「ふはっそんな慌てなくても、食べることは良いことですよ。そうですね。少し休みましょう」
心の中で謝りつつ、彼に支えてもらいながらカフェに向かう。
今私を支えてくれるこの大きな手も、1ヶ月後には触れることすらできないんだ…。
残り少ないのだから、私ももっと彼に素直になりたい。でも、素直になるって一体どうすればいいんだろう…?
「と、すみません。ちょっと連絡する所があるので、先に選んでもらってていいですか?」
「はい」
マフラーを私の膝にかけた志月蛍が携帯を持って外に出て行く。
途中店員さんに話しかけているところを見ると、多分自分が戻ってきてから注文を受けるように頼んだのだろう。
本当に、めちゃくちゃなことばかりするのにスマートにそういう事をするのだから驚く。
「まじでアイツ、顔もすることもイケメンだよな〜」
「そうですよね」
うんうん、と頷いて置いてくれていた水を口に含む。
「!?」
けど、すぐに違和感に気付いた私は思わず水を吹き出しそうになった。
