霧島さん
第5章 志月筧
「だけどやっぱり苦しいよ…」
ズキンと再び痛み出す心臓。
やっと止まったと思っていた涙も、ドバッと溢れ出す。
こんなのもう、認めるしかないじゃない。
私は、彼が好きなんだって。
「ッ捨てないで…志月さん、」
ギュッと、彼と一緒に眠っていたベッドのシーツを握りしめる。
するとまだ残る彼の香りが広がって、さらに寂しさがドッと襲ってきてしまって。
会いたい。抱きしめたい。
そんな思いも溢れて、1人がこんなに苦しいのだと初めて知る。
「…志月さん…」
「なんですか?」
「!?」
と、突然返ってきた言葉に、私は勢いよく顔を上げた。
志月さん!?
「いつの間に帰ってーー、」
が、声のした扉の方向に目を向けた私は、嬉しさから反転。
「か、筧さん…?」
一気に恐怖に包み込まれた。
「やっほー霧島さん。ね、今の蛍と似てたでしょ」
扉の前に立ち、甘い顔を緩めたその男は、強く印象に残っていた人物だった。
なんで、ここに…。
呆然と志月兄を見つめていると、男がビシッと私を指差す。
「そんな驚くけどね、一応兄弟だから鍵くらい持ってるんだよね。
それに、俺だって待ってたんだよ?絶対すぐに連絡くると思ってたのに、音沙汰なしなんだもんな」
「れ、んらく、」
「そ。渡したでしょ?なんも来ないから俺から会いに来ちゃった」