霧島さん
第5章 志月筧
志月家は料理を習ったりしてるんじゃないかってくらい美味しい。
ハンバーグはジューシーでふわっとしていて、かかっているソースも絶妙だ。
冷凍していたはずの白米も何故かふっくらしていて、一体どんな技を使ったのだろう。
「幸せそうに食うのな」
「美味しいです」
「それは光栄です」
野菜のドレッシングもただ単純にかけていない気がする。何を混ぜたんだろう?さっぱりしているのに噛むたびに味が深まる。
「ね、霧島さんの下の名前なに?」
「?なんでです?」
唐突に聞かれた質問に箸を止める。、
「呼んじゃダメ?」
「いえ…ダメじゃないです、けど」
ダメじゃないけど、下の名前なんて知りたいものなのだろうか。こう思うのは、私がどこか冷めているのかな。
「…ハナです」
「え、意外と可愛い」
意外とってなんだ、と少しムッとなるけど、さっき自分も意外となんて思ってしまったから何も言えない。
「じゃあ、ハナちゃんね」
「ど、どうぞ…」
なんだか久し振りに下の名前を呼ばれてむず痒い。
志月蛍は、知っているはずなのに呼ばないから。
「今蛍のこと考えてるでしょ」
「え」
と、鋭く図星を指され、目を見開く。
「ハナちゃんって無表情だけど、蛍のこと考えてる時だけちょっと表情柔らかいんだよね」
「そ、なんですか?」
「うん」
自分でも気づいていないことを指摘されると妙に恥ずかしく、体温が急激にあがる。