霧島さん
第5章 志月筧
こんなの彼にばれたら、きっとあのニヤニヤ顔でいじってくるに違いない。
「…会いたい?」
「……」
こくりと頷く。
会いたいと、素直に思う。
あんなに嫌だと思っていた胡散臭い笑顔も、私をいじり倒す彼の言葉も、全部恋しい。
…あぁ、思い出したら余計に寂しくなってしまった。
「…俺らって性格も顔もあんまり似てないけど、俺が意識したら聞き分けできないくらい声似てるんだよね」
「そうですね」
「そ。これは蛍のお墨付き」
『なんですか?』という声が聞こえた時は、本当に彼が帰ってきたのだと思った。
「で、覚えてる?図書館で言ったこと」
「…え?」
図書館で言われたこと…?
あの時この人に言われたことなんて沢山ありすぎて、どのことかわからない。
首を捻っていると、志月兄はふっと笑って口を開いた。
「覚えてない?あいつに傷つけられた女の子を慰めるのは俺の役目だって」
「、」
志月兄のその言葉でハッとする。
そして、それと同時に落ち着いていた心臓がバクバクと激しく動き出した。
ーーー…もしかしてこの人…、
嫌な予感が頭をよぎった時。
「ハナ」
「ッ!」
志月兄があの人と同じ声で私の名前を呼んだ。
ドクンッ。また大きく心臓が跳ねる。
持っていたお箸も、机の上にカランと落としてしまった。
「…冗談、ですよね」
「冗談だと思いますか?」
「…、」
「俺を蛍だと思っていいですよ」
そう言った志月兄の顔は冗談を言っている顔ではなかった。
いやだ。やめて。
違う。この人は、志月蛍なんかじゃない。
今目の前にいるのは、彼じゃない。