霧島さん
第5章 志月筧
俺は、久し振りに我が弟の名前を電話帳から探しだし、コールを押した。
普通に深夜過ぎてるけど、でなかったらこのまま貰っちゃおうかな。
「…筧さん?誰に電話を…?」
「しー。ちょっと待ってて」
携帯を耳に当てて、呼び出し音が途切れるのを待つ。
3回。4回。5回。
そして、6回目のコールが聞こえた時、その音がぷつっと途切れた。
『筧?』
「お、やっぱ起きてた。やっほー」
携帯から聞こえてきたその男ーー蛍の声は、少し驚いてるようだった。
無理もない。電話なんてほとんどしないし、ましてこの時間だもんな。
『どうした?急に電話なんて』
「いや?お前家に帰ってないみたいだから、どういうつもりなのかなと思って」
『…なんでそれ知ってんの、』
あ、不機嫌になった。
「だって俺、今お前ん家いるもん」
『……?え、どういうこと?』
訝しげな声でそう言う蛍に笑みがでる。ちょっとは弟らしく焦ってみればいい。
「暫く帰ってこないなら帰ってこないで心配しなくていいぞ。心優しーいお兄さんが、いつも通りお前の代わりをやってやるから」
正直帰ってこなくていいけど。と心の中で付け足す。
さて、どんな反応が返ってくるのか。
『ーーーー…』
ブチッ!
「え、ちょっと」
が、いくつか考えていた反応は返ってくることなく、電話は強制的に切られてしまった。