
霧島さん
第6章 霧島さんと先生
そう言ってみたものの、志月さんは少し躊躇っているようで。
一度珈琲を口に含むと、覚悟を決めたように私を見た。
そしてーーー…
「実は、君の言う先生は、俺の知ってる人なんです」
「霧島 臣。
貴方の仮の夫、ですよね」
彼の口からでた言葉に、私は瞬きも忘れて呆然となった。
カタンッ!
思わず手からマグカップを落としてしまい、ドロドロとココアが床に広がる。
それと比例するように、私の心も得体の知れない何かがドロドロと渦巻いていく。
「……な、んで、」
「…彼、霧島先生は俺の上司なんです。
昔、霧島先生は貴方の担当の精神科医だったでしょう?」
「そう、ですけど…。じゃあ、志月さんも、」
「はい。俺も精神科医です。けど、霧島さんが通っていた頃は別の病院で働いていたので、貴女とは会ったことはなかったんです」
志月さんは徐に立ち上がると、ペーパーを手にとって床に跪き、私の零したココアを拭いていく。
「そして俺が今の病院に来た頃、変な噂を耳にしたんです」
その間も、謝る隙もなく志月さんは淡々と話を続ける。
「霧島先生が、とある少女を囲っている、と。
それも、違法なやり方で」
バチッと、彼の瞳と目があう。
その目で、それは私のことだ。と言っているのがわかった。
