最後の恋
第4章 おでかけ
どちらも映画が好きだった。
ただ、彼は理系出身だからかSFが好きで、私は文系は関係なくホラーが好きだった。
好きなジャンルは被らなかったが、それでも何度か映画を見に行った。
並んで座って、館内が暗くなると、いつも不思議に心がざわめいた。
予告が始まり、光に照らされはじめた彼の横顔をこっそり見て、また視線を戻す。
開始から5分もしないうちに、指先に指先が触れた。
そのまま爪から指の背へのぼって、最後には座席に置いた手の上に、彼の手が重ねられた。
じんわりとあたたかく、少し重い感触に、なぜか彼と過ごす夜を思い出した。
うつぶせになったその上から、抱きしめられている夜。
重ねた手の中で、彼の指が私の手の甲を撫でた。私ももぞもぞと手を動かし、手をひっくり返して掌を向け、きゅっと彼の手を握り返した。
想像の中で、うつ伏せていた自分が寝返りを打ち、彼の胸に頬を寄せてしがみつく。
彼は時折握る手に力を入れたり緩めたりしながら、合間に指を肌に滑らす。
指の間を触られたときは、思わず肩が震えて、恥ずかしくて彼を見上げたら、
ずっとスクリーンを見たままだった彼がふいにこちらを向いて、
集中しなさい、と口の形だけで伝えてきた。目が笑っている。
そこからスタッフロールが終わるまで、重なり続けた私の左手と彼の右手は、互いの体温であたたまり、しっとりと汗ばむほどだった。
脳裏に浮かんでいた、映画と違う映像の中の彼と私も、汗に濡れた肌であがった息を抑えている。
映画、どうだった?と彼はわざとらしく聞いてくる。
あっという間でした、と答えると、彼はにこっと笑って、
僕もそう思った、と言った。
館内は明るさを取り戻し、私たちの手はそっと離れた。
本当は離したくなかった。
でも離さなければいけない状態にしているのは私のせいだったな、と
手を繋いで出口に向かうカップルを横目で見て思った。
さっきまでの重なった手と想像上の二人のゼロ距離に比べて、三歩の距離はあまりに遠い。
遅れがちな私を振り返り、彼は笑って、行こう?と促す。手は差し出さない。
ただ、追い付くのを待ってくれていた。
そして、三歩を保ってまた歩き出す。
日の下で手を繋げないのなら、せめてこの距離のまま、ずっと歩き続けたいと、
そう思っていたけれど、それすら叶わなかった今は、
やっぱりもう一度、あの暗い映画館に戻りたい。
ただ、彼は理系出身だからかSFが好きで、私は文系は関係なくホラーが好きだった。
好きなジャンルは被らなかったが、それでも何度か映画を見に行った。
並んで座って、館内が暗くなると、いつも不思議に心がざわめいた。
予告が始まり、光に照らされはじめた彼の横顔をこっそり見て、また視線を戻す。
開始から5分もしないうちに、指先に指先が触れた。
そのまま爪から指の背へのぼって、最後には座席に置いた手の上に、彼の手が重ねられた。
じんわりとあたたかく、少し重い感触に、なぜか彼と過ごす夜を思い出した。
うつぶせになったその上から、抱きしめられている夜。
重ねた手の中で、彼の指が私の手の甲を撫でた。私ももぞもぞと手を動かし、手をひっくり返して掌を向け、きゅっと彼の手を握り返した。
想像の中で、うつ伏せていた自分が寝返りを打ち、彼の胸に頬を寄せてしがみつく。
彼は時折握る手に力を入れたり緩めたりしながら、合間に指を肌に滑らす。
指の間を触られたときは、思わず肩が震えて、恥ずかしくて彼を見上げたら、
ずっとスクリーンを見たままだった彼がふいにこちらを向いて、
集中しなさい、と口の形だけで伝えてきた。目が笑っている。
そこからスタッフロールが終わるまで、重なり続けた私の左手と彼の右手は、互いの体温であたたまり、しっとりと汗ばむほどだった。
脳裏に浮かんでいた、映画と違う映像の中の彼と私も、汗に濡れた肌であがった息を抑えている。
映画、どうだった?と彼はわざとらしく聞いてくる。
あっという間でした、と答えると、彼はにこっと笑って、
僕もそう思った、と言った。
館内は明るさを取り戻し、私たちの手はそっと離れた。
本当は離したくなかった。
でも離さなければいけない状態にしているのは私のせいだったな、と
手を繋いで出口に向かうカップルを横目で見て思った。
さっきまでの重なった手と想像上の二人のゼロ距離に比べて、三歩の距離はあまりに遠い。
遅れがちな私を振り返り、彼は笑って、行こう?と促す。手は差し出さない。
ただ、追い付くのを待ってくれていた。
そして、三歩を保ってまた歩き出す。
日の下で手を繋げないのなら、せめてこの距離のまま、ずっと歩き続けたいと、
そう思っていたけれど、それすら叶わなかった今は、
やっぱりもう一度、あの暗い映画館に戻りたい。
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