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最後の恋

第5章 くちづけ


私は彼の前でよく泣いた。

泣き上戸のくせにお酒を飲みすぎたとき。

仕事の話を聞いてもらっているとき。

彼とペアを組んで出場した、習い事の教室内で開かれたコンクールで、入賞を逃したとき。

彼の告白を受け入れられなかったとき。

受け入れられなかったのに、何度も体を重ねているとき。


そんなとき、彼は決まって私の頭をくしゃくしゃに撫でてくれた。

泣かないで。

そう言う彼の言葉は、静かで深くて、この上なく優しかった。

目尻の下がった目でやわらかく微笑みながら、彼は私を抱きしめてくれた。

泣かないで。

それ以外なんにも言わないで、彼はそっと私の濡れた頬に口づける。

ぽろぽろとこぼれる涙を蜜のように彼の唇が吸っていった。

あんなに優しい口づけを、他には知らない。

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