テキストサイズ

最後の恋

第6章 くちづけのさき


彼は私の初めての人ではなかったけれど、彼とは色々な初めてを体験した。

たとえば舌を絡め合わせる深いキス、淫靡なホテルで過ごす一夜。

マットレスに押し倒されて、動物のような背後からの交合。

シャワーも浴びずに、もつれるように体を重ねること。

憔悴して眠りに落ち、また目覚めては熱に溺れての繰り返しで迎える朝。

チェックアウトの30分前まで貫かれ、腰が砕けてベッドにぐったり倒れ込む私を、彼は軽々と抱き上げ、バスルームへ運んでくれた。

そんなことも初めてだった。

それから誰かを裏切る胸の痛み。

恋人にも彼にも、少しずつ塗り重ねた嘘は鉛のように心を押し潰すこと。

これから一生、それを抱えて生きていかなければならないこと。


甘いものも、苦いものも、彼が生まれて初めて、与えてくれた。

あとにも先にも彼だけが、こんなにもたくさんの悦びと苦しみを感じさせてくれた。

彼は私の初めての人ではなかったけれど、彼は私の初めてで最後の人だった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ